今回は、かなり人事的な内容ですが、「退職届」と「退職願」の違いについて整理したいと思います。
この二つは基本的に社員都合で退職する際に、社員から提出される書類だということは、皆さんご存知でしょうし、あるいはご自身で作成されたことのある方もいらっしゃると思います。
しかし、この二種類の書類について、区別はついていますか?どちらも似たような書類ですが、人事総務担当者としては、社員から提出された際に、その違いを意識して対応しないと、思わぬところで足をすくわれることがあります。
退職届・退職願の法的な位置づけ
退職届・退職願は、ともに退職の意思表示と位置づけられます。
会社と社員との間には雇用契約という契約関係が成立していますので、退職の意思表示とは雇用契約解消の申込みと言えます。
申込みなので、基本的には会社がその申込みを「承諾した」時点で、効力が発生することになります。
しかし、会社がその優越的な立場を利用し、承諾しない場合には、労働者にとって極めて不利となってしまいます。
そこで、雇用契約の解除について、民法627条で定められており、無期雇用労働者については、承諾の有無に関わらず、契約解消の申込みから14日間で効力が発生するとされています。
ちなみに、就業規則で「30日前までに申し出ること」などと、規定している場合がありますが、それにより上記の民法の規定を適用除外にできるわけでは全くありませんのでご注意ください(とはいえ、就業規則通りに退職したほうが、社員としても円満に退職できるメリットはあるので、普通はそちらを選んでくれるわけですが)。
また、結局契約関係の話なので、退職の意思表示は口頭でも成立しますが、雇用の終了という、重大な結果が生じる対応なので、一般的には書面で表明することが望ましいです。
退職届と退職願の違いが表れる場面
労働者側が退職の申し込みを撤回しようとしたとき
さて、ここで労働者が退職の申込みを撤回しようとした場面について、考えてみたいと思います。
基本的には、すでに退職の意思表示の効力が発生している場合には、会社が撤回を認めない限りは、そのまま退職となってしまいます。
そのため、退職の意思表示の効力がいつ発生しているかが、ポイントになります。
退職の意思表示はいつ成立するのか
この点において、退職届と退職願では決定的な違いが発生します。
退職届は「●月●日に退職します。」というような、退職に関する“一方的な意思表示”と言えます。
そのため、その意思表示が人事権者(社長はもちろん、人事部長など決裁権を持った方)に伝われば、その時点で効力が発生したと考えられます。
一方で、退職願はあくまで「●月●日に退職したいのですが、よろしいでしょうか」という“願い出”です。
そのため、それに対して会社から「退職を認めた通知」を出した時点で、効力が発生したと考えられます。
ということは、対応に苦慮していた問題社員から「退職願」が提出されたにも関わらず、受身的にそのままにしていた場合、後で本人から撤回されれば、どんでん返しの可能性が十分にあるということです。
実務上の話
なお、実際に争いになった場合には、両者は区別されない可能性があります。つまり、名称に関係なく、実際に退職の効力が発生しているかどうかが争われる可能性が高いので、実務上は、退職願であろうと、退職届であろうと、「受理した」「意思表示を確認した」という通知をしておくほうが、良いでしょう(一般的には、退職の辞令や、退職承認通知書など)。