理論・解説 読書ノート

障害者に対する合理的配慮

合理的配慮は元々日本にはなかった概念・考え方です。そのため、その意味を言葉尻から想像してしまうと、大きな問題となります。

合理的配慮とはなにか

障害者雇用に際する合理的配慮は、障害者雇用促進法およびその指針を読み解く必要があります。
 なぜなら、法の中では「合理的配慮」という直接的な用語は用いられておらず、差別の禁止に関する指針、および合理的配慮に関する指針にしか登場ないうえに、十分に明確に定義されているわけでもありません。

さらに、ややこしいことに官公庁や公共交通機関を対象とする差別解消法でも同様に、法には明文化されず、指針でのみ説明され、またそれぞれの内容が微妙に異なります(このあたりがまさに、「なかった概念」に対する整理が、まだまだ十分ではないことを伺わせます)。

※第36条の2(募集・採用時の必要な措置)、第36条の3(労働者に対する必要な措置)

合理的配慮の本来の意味

今回しっかりと整理したいのは、そもそも合理的配慮とは、均等な機会・待遇の確保の支障となる事情や、労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を解消することを目的とした措置であるということです。

合理的配慮の具体的な提供場面

採用場面

イメージしやすい例として、下半身に麻痺があり、車椅子を用いている方を想定してみましょう。
 この方が、社屋の正面玄関にスロープがなく、数段とはいえ階段でしかアプローチできない会社の面接を受けようとした場合、そのままでは物理的に面接を受けることが困難になります。これでは、障害を理由として機会の確保に支障があると言えるでしょう。
 そのため、会社としては、本人からの「申し出があれば」、面接を受ける機会を確保できるように、何らかの措置を講じる必要が生じます。具体的には、補助をして階段を上がってもらうようにするか、あるいは、車椅子でも到達可能な別の場所での面接機会を設ける、ということになります。
(ちなみに、スロープを作ることは、「ポジティブ・アクション」と言われる別の対応方法です。こちらは、特定個人の申し出に対する対応ではなく、広く対象となる方に対して、「事前に」「申し出はなくても」配慮・対応することです)

一方で、面接自体は基本的には障害のない方と同じ基準で評価され、採用可否が判断されます。
 要するに、スタートラインに立つ機会の確保までは行う必要がありますが、その後は障害の有無に関わらず評価されるということです。
 具体的にいえば、職務遂行能力に不足がある場合は、障害があったとしても、障害がない方に対するのと同様に採用するかしないかについて、会社側が拘束されるようなことはありません。(一般的に障害者は職務遂行能力に不利な面が多いので、障害者雇用納付金という制度があるわけです)

就業開始後に障害を理由に業務の免除を求められたら?

採用後に職場で働いている状況で考えてみると、障害を理由に何らかの業務遂行に支障が生じている場合に、会社はその障壁を除去して、「業務を遂行できるようにすること」が、「合理的配慮」として求められます。

ここで注意が必要なのは、当初の労働契約の範囲内の職務遂行そのものを免除するような対応は、合理的配慮として求められているわけではないということです。
 つまり、「障害を理由に特定の業務を免除する」という対応は、本来求められる合理的な措置とは言えず、「私は障害だから、●●という業務を免除してください」という要望は、応ずるべき根拠を障害者雇用促進法や指針に見出すことのできない、あくまで一要望であると言えます。

合理的配慮指針における記載

合理的配慮指針においても、第4 合理的配慮の内容において、「中途障害により、配慮をしても重要な職務遂行に支障を来すことが合理的配慮の手続きの過程において判断される場合に、当該職務の遂行を継続させること」は、合理的配慮として事業主に求められる措置ではないと整理されています。

しかしながら、会社としては何もやらなくてもいいのかといえば、そうではありません。
 実は続きがあって、「ただし、当該職務の遂行を継続させることができない場合には、別の職務に就かせることなど、個々の職場の状況に応じた他の合理的配慮を検討することが必要であること」という但し書きがあります。
 つまり、当該職務の免除を認めなくてよいということを直截的に指針が許容しているわけではなく、当該職務の遂行を継続させることができない場合には、少なくとも「別の業務に就かせることができるかどうか」などを「検討する」ことは求められています。

しかしながら、結果として「別の業務に就かせること」ができないとしても、指針はそれを拘束するわけではない、という、かなりまどろっこしい理解が必要です。

具体的な例

先ほど例に挙げた車椅子使用の方が、物理的な障壁除去以外には特に配慮が必要ないことを確認したうえで、採用されていたとします。

いくつかの部署を経て、窓口対応が必要な部署に配属された際に、窓口業務における対人対応に支障があることが客観的にも認められ、本人からも「実は、コミュニケーションも苦手なんです」などとして、窓口業務を免除するような要望を求めてきたとした場合、どのように考えればよいでしょうか。

雇用に際して、事前に確認していた「下肢障害」に対して、能力発揮の妨げとなる「物理的障壁の除去」、つまり、たとえばカウンターの高さを下げるとか、窓口へ移動しやすいように通路幅を確保する、席の配置を変えるとか、これらの配慮は、たとえ、当初の想定よりも配慮の範囲が拡大するとしても、合理的配慮であるわけです。

しかし、本人の希望する窓口業務免除をしても、当初労働契約に含まれる職務遂行に支障を来す状態が解消されるわけではありません、
 言い換えると、単に(一部の)業務を免除することは、職場において支障となっている事情そのものが変わらないのだから、その内容は合理的配慮として事業主に求められる措置とはいえない、と考えるべきだということです。

もちろん指針に従えば、窓口業務を含まない別の職務への配置について検討する必要はありますが、結果として配置するか、配置しないかの判断は
企業に委ねられているということ、つまり、別の業務への配置を指針が直接的に拘束しているわけでないことを認識しましょう。

参考図書のご紹介

これらの考え方がよく分かる本として、以下の本を良く紹介していますので、もしご興味のある方は、ぜひご覧になってみてください。

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