復職名人における復帰基準は、通常勤務ができることです。これは働けることとイコールではありません。
復帰基準の考え方
復帰可能=通常勤務ができること
通常勤務ができることは、難しい言い方をすると、労働契約の債務の本旨に沿った、完全な労務提供ができることです。完全な労務提供という点がポイントで、一部の労務提供ができれば良いわけではないのです。
実際の現場では、「仕事ができている」と評価されているものの、完全な労務提供ができているとは言えないケースが、多数あります。
例えば、「来た日は仕事ができている」というケース。これは来るか来ないか分からない、つまり勤怠の乱れがある時点で、完全な労務提供ができているとは言えません。
またそもそも現実問題として、勤怠の乱れがある人に対して、一定の仕事を任せることができるはずがありませんので、そもそも”職位相当”の業務をさせていない可能性もあります。
また、「非常に優秀で仕事はできるものの、周囲へ怒鳴ったり、大声を出すなど、怖がっている」というケース。これは確かに仕事はできているのかもしれませんが、職場の秩序を乱している時点で、やはり完全な労務提供ができているとは言えません。いくら仕事ができるからと言って、周囲の同僚が怖いと思うような態度は、適切とは言えません。

復帰基準も三つの観点から整理する
復職名人において、復帰基準は、業務基準・労務基準・健康基準の三つの観点から定めています。
業務基準|元の職場で元の職務を職位相当で遂行できること
業務基準は、会社から求められる仕事を求められる水準で行えること、です。
なお、復帰時には必ず元の職場で元の職務に従事してもらいます(これを原職復帰の原則と呼んでいます)。復帰時の異動が必要という制約がある場合、完全な労務提供が可能とは言えませんので、この基準を満たしているとは言えません。元の職場で元の職務であっても、業務遂行できるようになるまで、復帰準備をしてもらいましょう。
労務基準|服務規程を遵守でき、就業態度に問題がないこと
労務基準は、勤怠や服務規程など、就業規則や職場のルールを守って、働くことができること、です。
当然のことながら、勤怠の乱れ(遅刻や早退、欠勤、当日連絡での急な休暇申請)は、就業規則を守って、完全な労務提供ができている状態とは言えませんので、認められません。
また、復帰時には軽減勤務はせず、他の従業員と同じく、定時勤務を所定労働日数について行えることが必要です。軽減勤務からの段階的配慮が望ましいという意見は、こちらも完全な労務提供が可能とは言えませんので、この基準を満たしているとは言えません。フルタイム勤務を自信をもってできるようになるまで、復帰準備をしてもらいましょう。
健康基準|健康上の問題を理由に業務遂行ができないことがないこと、かつ業務遂行によって健康上の問題が悪化することがないこと
健康上の問題とは私たちが作った考え方です。職場で働いている人の中には、疾病を抱えて治療しつつも、何ら就業上の支障を発生させずに働いている人がいます。分かりやすい例としては、生活習慣病などでしょうか。
第一原則で示したように、通常勤務に支障があるかどうかで判断すると、こうした疾病を抱えている人は特に問題ではありません。逆にどんな病気であっても、通常勤務に支障があれば問題です。
このように、病気のあるなし、あるいはどのような病気かといったことで考えるのではなく、通常勤務への支障の有無という観点から、問題を整理できるように、この考え方を作っています。
もう一点重要な点は、この健康基準は、復帰基準のあくまで一側面にすぎないという点です。仮に健康基準を満たしていたとしても、直ちに復帰基準すべてを満たしているというわけではありません。
最も重要な点は、関係者間の共通認識
これらの復帰基準を例えば就業規則に定めておくことは重要です。ですが、それ以上に重要なのは、この復帰基準を関係者間での共通認識とすることです。ここでいう関係者とは、本人・家族・主治医・産業医・上司・人事の六者です。
そのため、療養の初期から本人と家族にしっかりと説明をしておくこと、主治医には復帰基準を通知しておくこと、産業医と上司にも共有しておくことが、必要となります。
なお、この復帰基準の考え方は、休職事由が消滅した状態を具体的に整理したもの、という説明ができます。そのため、仮に就業規則の定めがなかったとしても、丁寧に説明をすれば、十分共通認識を形成できると考えています(もちろん就業規則にしておいた方が、より安心できます)。
就業規則での定め方
続いて、復帰基準を就業規則にどのように定めるか、解説いたします。
休職・復職規程の基本
まずは基本から。
労働契約により労働者は労務提供をする約束をしています(会社は賃金を支払う約束をしている)。そのため、何らかの事情により労務提供ができない場合、約束違反となりますので、契約の解消を検討することとなります。
その際に、何らかの事情を考慮して、一定期間契約の解消を保留する、というのが休職制度です。
上記を整理すると、何らかの事情=休職事由が存在していて、それにより労務提供ができないために、休職が発令されています。
そのため、休職事由が消滅し、労働契約通りの労務提供が再開できるようになった場合には、復職することになります。
従来型規程の問題点
復帰可能=健康状態の回復
従来からある多くの就業規則では、次のように、「健康状態が回復したか」に焦点があたっています。
第○条 第○条にて休職を命ぜられた社員は、従前の職務を通常程度に行える健康状態に回復した場合に、直ちに復職しなければならない。
要するにこの規程では、従前の職務を通常程度に行える健康状態に回復したかどうかで、復職可否を判断することとなります。
しかしながら文字通り考えてみると、従前の職務を通常程度に行える健康状態に回復したことは、どのように判断すれば良いでしょうか。
健康状態の回復は医師にしか判断できない
先ほどの規程では、休職事由の証明が「健康状態の回復」をもって判断されます。そして、健康状態の評価は、医学的な専門家に頼らざるを得ません。
要するに、本来は会社が主体的に判断すべき事項であるのに、主治医の診断書という医学的な意見に、相当程度、依存せざるを得ない構造になってしまいます。
例えば、主治医が復職可能と意見している事例に対して、具体的な根拠も示さず、面談時の様子などから「仕事をさせられそうにないから」といった理由で、復職を延期することは難しいと言えるでしょう。
一方の主治医の側も、健康状態の回復そのものは判断できるかもしれませんが、それにより従前の業務を通常程度に行えるか、という判断は非常に難しいものです。なぜなら主治医には従前の業務がどんなものなのか、詳しくは分からないことが多いからです。
こうした場合、主治医の意見を産業医に覆してもらおうと考えてきたかもしれませんが、主治医と産業医の意見が一致しない場合にどちらが優先されるかは、難しい問題です。
復職名人における対応
規程例
私たちは、復職の条件を、業務基準・労務基準・健康基準の3つの観点から規定することをおすすめしております。
そこで、この基準を就業規則の復職可否判断の基準として、次のようにそのまま記述してしまえば、先ほどのような問題は解消されます。
第○条 第○条にて休職を命ぜられた社員は、復帰後、以下の①から③の基準を満たす状態が6カ月以上安定継続的に可能と見込まれ、療養の原因となった疾病が増悪することはないと判断できる場合に、復職を認められる。
①業務基準 元職場・元職位・元職務への復帰を原則とし、復帰後の業務効率・質・量等が、職位相当、最低8割以上であり、2カ月以内に職位相当10割に回復すること。
②労務基準 前号の職務において労働契約における所定の始業終業時刻による定時勤務ができること(交替制労働者の場合は、交替勤務を含む)。復帰当初は時間外・休日労働をさせないが、復帰後1カ月経過後からは、業務上必要な時間外・休日労働を命ずる
③健康基準 健康上の問題による業務への支障、および業務による健康上の問題が発生するリスクが最小化されていること。
なお、①に規定する「原則」の例外は、元職場・元職位・元職務のいずれかまたは複数が、会社都合により消滅した場合とする。
このような規程を、適切な手順を踏まえて定めておくことで、例えば仮に主治医からの復職可能の意見書が提出されたとしても、それは3つの基準の内、健康基準を満たしただけであり、すなわち、そのまま復職可能という結論には直結しないと説明できます。
つまり、健康基準に加えて、残りの2つの基準を満たしているかどうか判断して、復職可否を決定するという運用が可能となります。
もちろん、私たちが推奨する手順と様式に従えば、3つの基準の判断の「順序」は、業務基準・労務基準の確認が「先で」あって、健康基準の確認は、その「後に」すべきことは言うまでもありません。
就業継続基準への準用も可能
また、規程を準用すれば、この基準は就業継続基準としても用いることが可能です。
実際に再療養を命じるためには、別の規程があった方が望ましいことに変わりはありませんが、復職後の再療養導入場面において本人を説得する材料としては、本規程をもとに説明することができるでしょう。