メンタルヘルス不調者対応をはじめとする、職場の問題対応を支援する中で、人事としていかに建前を通すかが重要である、と感じています。今回は、本の内容とは直接関係ないのですが、メンタル対応において非常に共感できる部分があったので、紹介したいと思います。
本の概要
この本は、NKK、GE、LIXILなどで人事を歴任している八木さんと、神戸大学大学院教授の金井さんによる本で、八木さんの話に対して、コラム的に金井さんが補足する内容になっています。
八木さんは、全例や制度に固執する継続性のマネジメントではなく、勝つための戦略を考えて行動する戦略性のマネジメントが重要である、と主張し、本書の中でも、八木さんがこれまでに考え、取ってきた行動が紹介されています。
人事部門の方には、役立つ内容が含まれていると思いますので、お勧めです。
職場における本音と建前
GEは建前の会社
八木さんは、GEについて、以下のように言及しています。
私がGEについて思うのは、GEは「建前の会社」だということです。「本音を封印する会社」と言い換えてもいいでしょう。
八木 洋介,金井 壽宏.戦略人事のビジョン~制度で縛るな、ストーリーを語れ~.光文社新書,2012.太字は筆者が追加。
GEの社内では、言ったことがすべて、決めたことがすべてです。・・・GEの社員たちは、書いてあることを書いてある通りにやっていきます。
もちろん、社員は人間ですから、中には、会社が決めたこととは違う本音を心の中に抱えている人もいるでしょう。しかし、GEでは、会社の方針に異論があれば、方針が決定する前に言うべきとされ、みんなで同意して決めたことは、決めた通りにやります。本社はこう決めたけれども、日本GEの社員の本音はこうだとか、中国のGEの社員の本音はこうだといった言い方は通用しません。建前は、言い換えれば大義です。大義の前では、いかなる本音も封印するしかないのです。・・・
これまで日本企業では、同じ文化を共有する社員同士が心を通わせながら働いてきました。そこでは大事なことをあまり口に出して言わなくても、お互いに本音を探り合うことでコミュニケーションをとることができました。
けれども、会社をグローバル化させていく場合は、それではうまくいきません。異なる国に生まれ育ち、異なる文化をもつ人々からなる組織では、大事なことはちゃんと言い、あるいはきちんと明文化しておいて、その通りに仕事を進めていくというふうに社内のコミュニケーションのとり方を変えていく必要があります。
つまりGEにおいては、方針が決まる前に本音を言い、方針が決まった後は決めた通り(=建前通り)に行動すること。そして、決めたこと(=大事なこと)はしっかりと明文化して、その通りに行動することが求められるということです。
特に近年多様化しつつある日本の職場においては、言わなくても通じることを期待して、コミュニケーションをさぼってはいけないとも言えます。言うべきことはキチンと言う、言っただけではなく、伝わっているかどうか確認する、必要に応じて明文化する、そういったコミュニケーションの手間をかけることが重要になってきているのでしょう。
納得することと、従うことは別
物事を決める際に、全てが全会一致で決まるわけではありません。決定過程で反対意見を表明し、多数決の場面でも反対をする人がいることもあるでしょう。
ですが、反対意見を検討するというプロセスを経ることで、多くの人が賛成して決まったことについて、反対した人も(渋々かもしれませんが)従ってもらうことができると考えます。
あるいは、一部には反対意見を持っていながら、多数の意見に従う形で、自分の意見を飲み込んでいる人もいるかもしれません(表面上は全会一致になる)。
こうした人たちは、賛成こそすれど、実際に決まったことを実行に移してくれないかもしれません。
そのため重要なことは、物事を決めることそのものよりも、物事を決めるプロセスと決定事項に対するコンセンサスを得ることである、ということです。
職場では建前が重要
いつもお伝えしている通り、職場は働く場所です。心からやりがいをもって働いている人がいる一方で、お金をもらえるから働いているだけという人、そもそもやる気がない人、組織にぶら下がりたいだけの人など、色々な人がいます。
ですが、全員がこれらの本音を出してしまっては、組織としてまとまりません。ある人は「仕事ってやっぱり楽しいな」と言いながら働き、また別の人は「もっとお金を稼げる会社があればいつでも転職する」と言い、また別の人は「できる限り働かずにお金だけもらっていたい」とサボっている、そんな職場を想像すれば分かるでしょうか。
建前であれ、職場では会社のビジョンや経営方針に従って、働かなければならない、ということです。本音を漏らすのは、社外で就業時間外に限るべきなのです。
メンタルヘルス対応を考えてみると・・・
社外という意識が強いためか、メンタルヘルス対応においては、本人の本音が出すぎていないでしょうか。その本音を汲みすぎていないでしょうか。
いつも引き合いに出しますが、同じような本音を採用場面において、応募者が漏らしていた場合に、採用に至るでしょうか。
厳しい言い方になりますが、建前(=大義)の前では、いかなる本音も封印して働かなければなりません。復職時にはその考えに至っているか、言い換えれば覚悟があるか、確認する必要があると考えます。
人事はきれいごとを通す仕事
別の箇所ではこうも指摘しています。
人事は、「きれいごと」を通す仕事です。正しいと信じることを正しくやるのが私たちの任務ですから、会社でおかしいと思うことがあったら、上司に対しても、あるいは社長に対してでも、口に出して主張すべきです。そうすれば、きっと社内で多くの味方が得られるはずです。なぜなら、社内にいる多くの人はふつうの人であり、ふつうの人は正しいことが大好きだからです。
八木 洋介,金井 壽宏.戦略人事のビジョン~制度で縛るな、ストーリーを語れ~.光文社新書,2012.
きれいごとを通すためには、そのきれいごとに反するおかしなことに、指摘をしなければなりません。また同じ視点で自らの身も振り返らなければなりません。
対応する人事、あるいは会社の側にも、こうした覚悟が必要であると考えます。