読書ノート

『失敗の科学—失敗から学習する組織、学習できない組織』

AmazonのKindle unlimitedの対象だったので、何の気なく読んでいたのですが、非常に面白かったので、紹介させていただきます。

失敗から学習することが重要だというのは言うまでもありません。ですが、本書はそれ以前に、失敗を認めることやそれを促す文化の重要性、その際に各自が陥りがちなバイアスなどを取り上げています。

自分が所属する組織の在り方についても、あるいは自分の行動についても、気づかされるポイントがたくさんありました。

医療業界と航空業界の違い

本書はあくまでアメリカの話であり、日本はそうではないと願っていますが、アメリカでは医療ミスが非常に多いそうです。かつ問題は、その失敗から学ばない、もっと広く言えば改善点を水平展開しようとしないから、いっこうにミスが減らないと指摘されています。
 これとは対照的に航空業界は、何か失敗があった際に、すぐに調査を実施し、改善点を水平展開することで、今日のような非常に安全な状況が、業界として築き上げられています。

医療業界には「言い逃れ」の文化が根付いている。ミスは「偶発的な事故」「不測の事態」と捉えられ、医師は「最善を尽くしました」と一言言っておしまいだ。しかし航空業界の対応は劇的に異なる。失敗と誠実に向き合い、そこから学ぶことこそが業界の文化なのだ。彼らは、失敗を「データの山」ととらえる。

マシュー・サイド. 失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織 (p.36). 株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン. Kindle 版.

これは業界の文化も影響していると、筆者は指摘しています。医療業界では、失敗は無能であることの証であると考えられていて、失敗を自ら認めることが非常に困難な文化になっています。結果的に失敗は報告されず、調査もされず、改善もされません。
 一方の航空業界では、人間は誰しもが失敗をするものであるが、そもそも人間が犯す過ちは、広い意味での「システム」に要因があると考えています。そのため、失敗はシステムの改善、学習の機会になるととらえられていて、積極的に報告がなされ、調査もされ、改善も進んでいきます。

産業保健の分野も同じ?

産業保健の分野も、広い意味で医療的な分野ですから、こうした傾向があるかもしれないことは、念頭に置いておかなければなりません。

メンタル対応をはじめとする職場の健康管理について、産業医の先生や保健師さんなどの産業看護職の相談を受けると、過度に失敗することを恐れている、あるいは完璧を目指しすぎている印象を受けることがあります。

例えば、すでに難渋事例になっている事例の解決。ここまでやってきた数々の失敗には目もくれず、(あるいは失敗してきたからこそ)完全な解決を望んでいることが非常に多いです。ですが、こういう事例については、「メソッドはローパフォーマーを劇的に改善する手法でもなければ、こうした問題を一挙に解決できる方法でもありません」といつもお伝えしています。
 またこの事例への対応と、今後の教訓を分けることも大事です。端的に言えば、この事例はある程度の落としどころで収めて、同じ事例を生まないように、失敗から学習しましょう、ということです。

あるいはこれは自治体に多いですが、復帰基準を完璧に満たせなければ復帰できない、と杓子定規な対応をしたりします(今まではあいまいな基準で適当に復帰を判断していたのに!)。もちろん基準がある以上、問題があることが明らかな状態で復帰をさせることは問題ですが、全く瑕疵がない状態を求めるのは行き過ぎです。
 あくまで復帰後に通常勤務してもらうことが、こうした基準や手順を定める目的なわけであり、適度なところで復帰させ、やっぱりだめなら再療養させるという手順の方が、良いケースもあります。

話が少し逸れましたが、ある程度の曖昧さを許容し、仮に失敗したとしてもそこから学習する。これこそが病院ではなく、会社組織における産業看護職としてあるべき姿なのではないかなと思います。

メソッド導入の方法

もう一点。メソッドを新たに導入する際の方法として、①復職プログラム全体を仕上げてから、全事例に適用していく、②まずは1~2事例やってみてから、他の事例にも対応していく、という二つのアプローチがあります。
 私たちはこれまでの経験からも、②まずは1~2事例やってみる、をお勧めしています。

その理由の一つとして、失敗から学ぶことができるからです。もちろん失敗とは言い過ぎで、どちらかというと、全事例に適用した際に大失敗をしないために、1~2事例やってみて様々な気付きを得る、という感じでしょうか。
 これまでとは違った対応になりますので、1~2事例試すだけでもある程度の労力が必要となりますし、また関係者への説明の方法や書類のやり取りの手順など、学習できるポイントは多々あります。

またもう一方の、復職プログラム全体を仕上げる、言うならば完璧な状態を作ってから、先に進めていくというアプローチは、ほとんどうまくいきません。(もしかしたらうまくいっているから相談がないだけなのかもしれませんが)いろいろな課題が明らかになったり、今までの方が良いという人の抵抗があったりして、導入ができないのです。
 とりあえず1~2事例やってみて、実績を作り、改善点を改善してから、本格導入する。現時点ではこのアプローチが一番お勧めです。

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