休職中に新たな休職事由となりうる疾患が発生した場合の対応〜複数の休職事由が重なった場合の実務対応〜

従業員の高齢化や労働人口の変化に伴い、人事担当者や産業保健職が直面する課題も多様化しています。その中でも、「休職中に新たな疾患や怪我が発生した場合、どのように対応すべきか」という問題は、意外にも明確な指針がなく、今後多くの企業で悩ましい課題となる可能性があります。

本記事では、休職事由が複数発生した場合の法的・実務的な考え方を整理し、就業規則の見直しポイントについて解説します。

*本記事は「復職名人が読む三手先」第93回の内容をもとに構成しました。

よくあるケース例

実務では以下のようなケースが発生します。

【ケース1】
メンタルヘルス不調で休職中の従業員が転倒し、骨折により3ヶ月の入院が必要となった。休職期間満了まで残り3ヶ月という状況で、どう対応すべきか。

【ケース2】
適応障害で休職中の従業員が、休職期間の途中でがんが発覚し、長期の治療が必要になった。

これらのケースでは、「休職事由を追加するのか」「休職期間をどう扱うのか」といった点が問題となります。

法的・制度的な論点整理

休職事由は「病名」で区別されるのか

多くの就業規則では、休職事由として「傷病による労務提供不能」と規定されています。この場合、休職事由は必ずしも「病名」と紐づいているわけではなく、「労務提供ができない状態」が休職事由であるという解釈も可能です。

一方で、通算規定において「同一または類似の疾病」という表現を用いている場合、病名による区別を前提としているとも読み取れます。

要するに、就業規則の規定の中ですでに矛盾が生じていて、実務上の混乱を招く要因となっています。

シャープNECディスプレイソリューション事件の示唆

この事件では、適応障害で休職していた従業員に対し、会社が途中から発達障害を理由に休職期間満了を主張したケースが争われました。裁判所は、「休職発令時の事由(適応障害)と異なる事由(発達障害の特性)を後から追加することは認められない」と判断しました。

この判例から学べることは、

  • 休職事由の追加や切り替えには、労使双方の共通認識が必要
  • 会社側が一方的に休職事由を変更することは困難

という点です。

休職制度の本質に立ち返る

休職制度は、本来「解雇の猶予措置」として位置づけられます。労務提供できない状態は債務不履行であり、原則として解雇事由となりますが、一定期間の猶予を与えて回復を待つというのが休職制度の趣旨です。

この本質を踏まえると、複数の傷病により労務提供の見込みが失われた場合、休職期間を際限なく延長することは、制度趣旨に反するとも考えられます。

実務上の考え方

休職事由が複数発生した場合、大きく分けて以下の2つのアプローチがあります。

1. 追加アプローチ

既存の休職事由に新たな事由を追加し、両方の疾病が治癒するまで休職が継続するという考え方です。しかし、このアプローチには以下の問題があります。

  • 休職期間満了のタイミングが不明確になる
  • 労働者側が恣意的に疾病を追加し、休職期間を延長できてしまう
  • 複数の疾病の治癒を同時に確認することが実務上困難

2. 切り替えアプローチ

既存の休職事由を新たな事由に切り替えるという考え方です。例えば、メンタルヘルス不調で休職中にがんが発覚した場合、がんの治療期間の方が長いと見込まれるなら、がんを主たる休職事由として扱います。

ただし、この場合も休職期間満了直前に切り替えを主張されるなど、悪用のリスクがあります。また現実的にも、休職期間満了直前で、新たな病気を見つけようと思えば見つけられるものもあるでしょう。

推奨される実務対応

これらの問題を踏まえ、以下の対応が推奨されます。

(1)労使双方の共通認識の確認
新たな疾病が発生した場合、まず産業医面談等を通じて、「現在何を理由に休職しているのか」を労使双方で確認します。一方的な追加や切り替えは認められないため、この確認プロセスが非常に重要です。

(2)復職見込みの評価
新たな疾病により、当初の休職期間内での復職が見込めなくなった場合、休職制度の趣旨(解雇の猶予措置)に照らし、休職期間満了を検討することも一つの選択肢です。

(3)定期的な状況報告の活用
週次や月次の状況報告を通じて、新たな疾病の発生を早期に把握することが重要です。報告の中で入院や新たな治療が明らかになった場合、速やかに対応を協議します。

就業規則の見直しポイント

複数の休職事由が発生した場合の混乱を避けるため、以下の点を就業規則に明記することが推奨されます。

1. 休職期間の起算日の明確化

「休職期間は、最初に休職が発令された日を起算日とし、新たな疾病が発生した場合でも、起算日は変更されない」という規定を設けることで、休職期間の無限延長を防ぎます。

2. 休職事由の定義を病名によらない形に

「傷病により労務提供ができない状態」を休職事由とし、病名による区別を避けることで、複数の疾病が発生した場合でも一貫した取り扱いが可能になります。

3. 最長休職期間の設定

「いかなる理由であっても、通算での休職期間は○年を超えないものとする」という上限規定を設けることで、制度の濫用を防ぎます。

まとめ

休職中に新たな疾患が発生した場合の対応は、法的にも実務的にも明確な答えがない難しい問題です。しかし、以下の原則を押さえることで、適切な対応が可能になります。

  • 労使双方の共通認識を必ず確認する
  • 休職制度の本質(解雇の猶予措置)に立ち返って判断する
  • 就業規則で休職期間の起算日と上限を明確にする
  • 病名ではなく「労務提供不能」を休職事由の基準とする

労働人口の高齢化が進む中、こうした複雑なケースは今後ますます増加することが予想されます。就業規則の見直しを含め、事前の備えを進めておくことが重要です。