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合宿で収録した音源の2本目です。今回は主治医産業医の一人二役の問題について深めました。
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■主治医産業医の一人二役とは?
- 文字通り、臨床医である産業医が、自身の担当する会社の従業員を自院に誘導したり、主治医として診察したりすること。
- 臨床医ベースの産業医における、患者獲得目的や純粋な親切心から生じる関わり。
- かつては工場内診療所などで見られた形態だが、近年は企業内診療所は閉鎖傾向にある。
- 通常、主治医の役割がドミナントになりやすい構造。
■第一段階の問題:利益相反
- 主治医は患者の利益を100%追求する一方、産業医は会社の利益(事業者の利好保持、労働者と事業者の公平)のために業務を行うため、立場の対立(利益相反)が生じる可能性がある。
- 復職支援など、一見利益が一致する場面もあるが、労働者からの特別な配慮希望などが入ると対立が表面化する。
- これは弁護士の双方代理禁止の概念に近く、産業医が本人の要望を会社に伝える際に「代理人活動」に近づき、利益相反が顕在化しうる。
- 弁護士は利益相反の可能性があれば同意を取り、生じたら辞任する。主治医産業医も同様に、コンフリクトの可能性を契約時に明示し、生じた場合の対応(例:主治医を辞める)を決めておくべき。
- 真っ当な産業医は、最初から他の医師に主治医を依頼することが多い。
- 地域に他の医師がいない場合など、やむを得ず兼務する場合は、産業医としての役割を医療的な健康管理に限定せざるを得なくなる可能性も。
■第二段階の問題:産業医活動中の暗黙の期待と契約関係
- 通常の産業医活動(面談など)においても、従業員側に「暗黙の医療契約」やそれに類する期待・誤解が生じているのではないかという問題。
- 産業医としての面談だが、従業員との間に個別の契約関係はないとされるにも関わらず、「ここだけの話」として会社に伝えない情報が発生し、特定の社会的関係が生じる。
- 産業医が従業員から会社にとって必要な情報を知りながら、必要な措置を会社に意見しないことによる事業者リスクの問題。
- 特に、従業員から自殺を示唆するような情報などを「会社に言わないで」と言われた場合の対応など、緊急例外的な場合の線引きが難しい。
- 産業医が情報を知っていることは事業者が知っていることとイコールと見なされ、訴訟リスクにつながりうる。
- 社内でダブルスタンダードが生じる可能性(例:社内基準と健康相談で得た情報に基づく個別判断の違い)。これは統括産業医や事業者視点では問題。
■第三段階の問題:法令間の矛盾とリスク
- ストレスチェックの実施者と産業医の兼務の問題。実施者として高ストレス者を知っても、本人が面接指導を申し込まなければ中途半端な状態になる。
- 労働安全衛生法における健康診断結果の取り扱いと個人情報保護法のギャップ。安衛法で事業者が結果を知ることが定められていても、本人の同意なく機微情報を知ることは問題視されうる。
- 安衛法の「親代わりの健康管理」という前近代的な構図と、個人情報保護法の進んだ制度(EUベース)との間の矛盾。
- これらの法令間の矛盾が、労働者と事業者の認識相違から紛争に発展するリスクがある。
- 例えば、検診結果に基づく就業制限が原因で従業員が不利益を被った場合、就業制限措置の違法性や産業医への不法行為訴訟につながる可能性。特に、法定項目だけでなく、法定外項目も一緒に取り扱っている場合、同意の有効性などがさらに問題になる可能性がある。
- 安全衛生に関する立法と個人情報保護に関する立法は相性が悪いため、今後も矛盾が表面化する可能性がある。
- 検診結果の生データなど、実務産業医が知る必要のない情報は切り分けるなど、情報の取り扱いに細心の注意が必要。
- 保健師も同様に、従業員からの秘密保持への期待と人事との情報共有の間で板挟みになるリスクがある。法的位置づけの不明確さからトラブルになりやすい面も。
■結論として
- 主治医産業医の一人二役は、さまざまなリスクをはらんでおり、時代的にも許容されなくなりつつある危うい状況。
- 複数の法令が絡み合い、矛盾も生じているため、関係者は自身が「危ない橋を渡っている」という自覚を持つ必要がある。
- 働き方改革による産業保健機能強化は、実態として責任増強になっている面も。
- 情報の適切な取り扱いと、自身の業務範囲の明確化が、今後ますます重要になる。