第82回|AMA復職ガイドラインについて

復職名人が読む三手先
復職名人が読む三手先
第82回|AMA復職ガイドラインについて
Loading
/

ポッドキャスト「復職名人が読む三手先」第82回では、AMAの復職ガイドラインについて議論しました。

告知

第35回日本産業衛生学会全国協議会

模擬裁判「裁判のソコが知りたい」

  • 3人が登壇予定です
  • 11月28日(金)16時30分〜18時10分
  • あわぎんホール5階大会議室

Podcast公開収録

  • 11月27日(木)17時30分〜19時(予定)
  • とくぎんトモニプラザ 大会議室
  • 終了後、懇親会を開催予定です。またご案内いたします。

【番組へのご意見・ご質問・ご感想はこちら】
https://peing.net/ja/takaomethod

【有料のオンラインサロンをやっています。番組を応援いただける方は、ぜひご加入くださいませ】
https://community.camp-fire.jp/projects/view/307210⁠

近況報告

高尾

  • ウイスキーのストックが83本を超えました。最近はジャパニーズが手に入りやすくなってます。
  • 中国のSF小説「三体」を全巻読破しました。

前園

笑い飯・哲夫著の「ブッダも笑う仏教のはなし」を読みました。
https://amzn.asia/d/0yF5t05

日本人の死生観について本を読んでみました。
https://note.com/pelicans/n/ncfa5b993ab08

議論した内容

AMA復職ガイドラインにおける「リスク」「キャパシティ」「トレランス」の定義

AMA Guide to the Evaluation of Work Ability and, Return to Work Second Edition
https://amzn.asia/d/bcT1TJP

Risk

従業員が特定の業務に従事することで、本人、同僚、第三者などに害をなす恐れがある状態である。これには「就業制限」を考慮する。例えば、コントロール不良のてんかん患者の航空機パイロットやタクシー運転手への就業制限がこれに当たる。これは本人はできるが、雇用主としてはやらせるべきではない側面がある。

Capacity

筋力、柔軟性、持久力といった、科学的医学的に測定可能な身体的能力を指す。「ワークリミテーション」として表現する。肩の手術直後の患者の上肢挙動を伴う作業の制限などが例である。これはあくまで現時点での能力であり、本人の潜在的な能力ややる気によって変動しうる。精神的な能力はここには含まれない。

Torelance

従業員が特定の作業を「やろうと思えばできるが快適にはできない」状態である。従業員がそれをやるかやらないかは本人が選択する。医師はトレランスについて意見を述べるべきではないと明確にされている。これは医学的科学的に測定・検証されないため、医師間で意見の不一致が生じる主な原因となる。

@Hiroshi_Tsuji
https://x.com/Hiroshi_Tsuji

日本型雇用慣行への適用と課題

医師の意見の整理

日本の文脈、特に精神疾患に関する復職判断では、主治医意見がリスク、キャパシティ、トレランスの概念を混在させて述べられていることが多い。精神疾患における「異動が望ましい」や「軽減勤務」といった意見は、多くの場合、本人の「やりたくない」というトレランスの問題である可能性が高い。日本の医師は「全部医者がやってあげようとする」傾向があるが、AMAガイドラインは医学が関与すべき範囲を明確に線引きしている。

メンバーシップ型雇用との不整合

AMAガイドラインは米国におけるジョブ型雇用を前提としている。日本のメンバーシップ型雇用では職務を限定せず、能力不足の場合でも教育研修や異動による支援が当然とされる傾向があるため、キャパシティの評価は「する意味すらあまりない」ことが多い。これは「働く権利」や「雇用した責任」といった日本独特の文化的背景が、労働契約外の支援を企業に要求する原因となっている。

医師の役割の再定義

医師は「単なるアドバイザーに過ぎない」という立ち位置を明確にすべきである。「ドクターストップでできない」という医師の意見が、実際には医学的根拠のないトレランスの問題であるにもかかわらず、本人の意思をすり替えている状況が問題である。産業医は、リスク、キャパシティ、トレランスの概念を主治医に共有し、トレランスの問題については意見を求めず、尊重しない旨を事前に伝えるべきである。これにより、医学的根拠に基づいた意見表明に専念できる環境が整う。

具体的な運用と展望

企業内での合意形成

企業と労使間で、AMAガイドラインの考え方を取り入れ、自社に落とし込んで採用する旨を合意することが重要である。これにより、主治医に対して合理的な根拠を持って復職判断の基準を示すことができる。

教育研修の強化

産業医や医療従事者へのAMAガイドラインの普及、特にリスク・キャパシティ・トレランスの概念の共有が不可欠である。これにより、日本の「過保護的」な健康管理を見直し、より合理的で明確な復職支援体制を構築することを目指す。

メンタルヘルス不調への適用

メンタルヘルス不調においては、リスクもキャパシティも概念として成立しにくく、ほぼトレランスに関する問題だろう。自傷行為のリスクなども、特定の業務に起因するものではなく、治療コントロールの問題として捉えるべきである。

司法への浸透

準備書面などを通じて、裁判官などの司法関係者にもこの概念を広く知ってもらうことで、より公正な判断が期待できるのでは。

編集後記

高尾
お盆休みを利用して、連載原稿のドラフトを複数準備しました。5本目くらいになると、だいぶ内容が希薄になってくるのが自分でもわかります。。。

前園
まさか仏教的な探求を森先生もされているとは思いも寄らなかったです。
「長年連れ添うと夫婦は似てくる」などといいますが、森先生と私もどんどん似てきたということでしょうか。
いやしかし、労務の現場は諸行無常。
メソッドの議論は常に3人、喧々諤々・是々非々でなければなりません。
改めて気を引き締めたいと思います。


AMAガイドラインの正式名称を入力すると、なぜかWordPress側でエラーが出てしまい、四苦八苦しました(おそらく、なんらかの不正な攻撃コードと誤解されていた)。