理論・解説

試し出社制度の整理

各社によって、試し出社、試験出社、慣らし出勤、リハビリ出勤など、いろいろな呼び方がされていますが、復職の発令前に行われる試し出社について、今回は取り扱いたいと思います。

なお初めに結論を述べておくと、試し出社制度は様々な問題があるため、おすすめしていません。復帰準備にしっかりと取り組んでもらい、復帰の手順の中でしっかりとそれを確認すれば、試し出社は必要ありません。

何を目的とした制度か

試し出社制度を整理するうえで、改めて目的を考えてみましょう。

各社によってその目的が異なりますが、一般的な試し出社制度には、大きく分けて二つの目的があります。
 一つ目は、復帰判定のために実施する、試し出社です。これは試験出社と呼ばれていることが多いかもしれないので、以降は「試験出社制度」と呼びます。
 もう一つは、本人の治療・復帰準備のために実施する、試し出社です。こちらはリハビリ出勤と呼ばれていることが多いかもしれないので、「リハビリ出社制度」と呼びます。(もちろん名称は各社によってバラバラですので、あくまで目安にすぎません。重要なのは制度の目的がどちらなのかということです)

重要なのは、復帰判定のために実施しているのか、本人の治療・復帰準備のために実施しているのか、制度の目的を整理したうえで、その目的にあった内容で実施しなければなりません。しかしながら多くの場合、この点があいまいになっていないでしょうか。

試験出社制度

試験出社制度の内容

試験出社制度は、いうなれば会社が復帰判定をするために行うものです。

おそらく試験出社を開始するまでに何らかの判定はしてきていると思いますが、それで復帰させて良いか確証に至らないために、試験出社をさせて、最終的な判断を行います。

改めて休職状態からの復帰をおさらいしてみると、休職事由の消滅とは、従前の業務を遂行できる状態に回復したことであり、完全な労務提供ができる状態です。
 つまり、復帰できるか=従前の業務を遂行できる状態にあるか、判断するためには、従前の業務を実際に実施してもらって、問題ない状態にあることを確認する必要があります。
 もちろん、復帰前に実施するものですから、従前の業務と全く同じ業務をさせることはできないかもしれません。ですが、そもそも制度の目的を考えると、従前の業務にほど近い、業務相当の試験を実施する必要があります。また少なくとも何を試験しているのかははっきりさせたうえで、実施しなければ意味がありません。

そして、もし試験出社制度で合格に至らなかったらどうなるか。復帰させて良いとは判断できないことになりますので、復帰は延期することとなります。

問題点

試験出社制度といいつつも、何を試験させているのかはっきりしないケースをこれまで多く見てきました。あるいは試験というにはあまりに簡単なことしかさせていないケースもよくあります。

一方で業務に近いことを試験した場合、賃金の問題が発生する可能性もあります。
 また、明確に試験を合格できていない場合であれば、本人も会社も復帰時期尚早という共通認識を持ちやすいかもしれませんが、本人は合格できていると考え、会社は合格できていないと考えるような微妙な状態の場合、トラブルに発展するリスクがあります。

いくつも問題点を上げましたが、試験出社をダラダラと続けない限りは、賃金の話は微々たるものですから、その発生リスクだけは許容しても良いと考えます。それよりも、

  • 日々、何を試験しているのかはっきりさせること
  • 試験を合格できない場合は、復帰時期尚早だと判断して、再度復帰準備に取り組ませること(試験出社を延長しない)
  • 日々の試験において、できているのか、できていないのかをはっきりと本人にフィードバックをすること

というように、しっかりと準備をして、厳格に実施しましょう。こうした丁寧な準備や実施ができないのであれば、試験出社制度に取り組むべきではないでしょう(冒頭に申し上げた通り、試験出社制度もお勧めしておりませんが、もしやるのであれば、という仮定の話です)。

リハビリ出社制度

リハビリ出社制度の内容

リハビリ出社は、本人の治療・復帰準備の一環として、実施するものです。そのため、あくまで本人が希望した場合に、本人のために行う制度であると言えます。

良く行われているリハビリ出社は、出勤訓練(例えば朝礼まで参加させるなど)や、職場での簡単な作業とかでしょうか。休職期間中の従業員に対する制度ですから、基本的には業務から外れた作業に取り組んでもらうことになります。

なお、あくまでリハビリ出社は、本人の治療・復帰準備の一環なので、それができようができまいが、復帰判定には関係ありません。

問題点

確かに、出勤訓練や勤務訓練などを職場で行うことができれば、本人の治療・復帰準備のためになるかもしれません。
 その一方で、リハビリ出社の準備を行う職場側には一定程度の負担が発生します(最低限、リハビリ出社をする場所・設備などは確保する必要がある)。
 また、例えばリハビリ出社を理由に病状が悪化した場合のことを考えると、安全配慮義務上のリスクもあります。
 要するに、本人のためだけに、職場側がコストを払い、リスクをとってまで実施する必要があるのか、改めて考えてみる必要があると思います。そもそも職場は働く場所であって、リハビリをする場所ではないのです。

そしてもう一点。リハビリ出社が十分にできなかった場合、それをもって復帰時期尚早であると判断しようとしているケースが少なくありません。しかしながら、リハビリ出社ができないことと、従前の業務を遂行できないことは、別問題です(と取り扱われた、裁判例があります)。
 こうなってくると、ますます職場でリハビリ出社を行う意義を、考え直す必要があると思います。

(おまけ)慣らし出勤・軽減勤務

休職発令後に実施する、慣らし出勤・軽減勤務について、補足しておきます。

基本的には、慣らし出勤や復帰時の軽減勤務は必要ないと考えています。こうした配慮が必要な状態は、まだ完全な労務提供ができる状態にはないと言えますので、そもそも復帰時期尚早です。
 あるいは、良く採用場面の話を引き合いに出しますが、新卒の新入社員が入社した時に、慣らし出勤と称して、半日勤務から実施するような会社があるでしょうか。入社日からしっかりと勤務できるよう、生活リズムなどの面で準備しておくように、という話ですよね。
 ということで、復帰初日からフルタイムで勤務できるようにしっかりと準備をしてから、復帰してもらえばよいのです。

ただし、一つだけ、復帰時の配慮をすることをお勧めしています。通常は復帰日を、月曜日とか、月の初日としていると思いますが、それを、祝日がある前の週の中日(水・木)に設定する、という配慮です。
 これにより、復帰第一週は3日勤務、第二週は4日勤務、第三週目から5日勤務と、あくまで通常勤務状態(つまり他の従業員と同じ状態)を維持しながら、段階的な負荷をかけていくことが可能になります。


なお、私事ながら、この春に子ども(8カ月児)が保育園へ通い始めました。
 当初は慣らし保育ということで、1週間くらいかけて、午前中(昼食前まで)、半日(昼食まで)、15時まで(昼食後、お昼寝まで)と段階を踏んで、1日保育へと移行しました。
 これまで家の環境+αしか知らない子どもにとって、保育園の新しい環境は大きく異なると思いますが、子どもの適応力ってなかなかすごいですね。

子どもの保育園への入園と、休職者の復職は全く違う話ですので、これはあくまでおまけの話です。

-理論・解説
-