休職中の従業員には、一般的には電話連絡や定期的な面談での状況把握が行われています。
一方で、復職名人の対応では、週一回の療養・復帰準備状況報告書を通して、休職中の従業員とコミュニケーションを取ります。要するに、書類を通したやり取りが中心です。
この点を、冷たい・厳しい、と感じられる方がいらっしゃるようですが、必ずしもそうだとは思っていません(温かい対応だとは思っていませんが…)。
休職者が陥りやすい感覚
先日行われた日本産業衛生学会のシンポジウムにて、EAP機関の方から、「メンタルヘルス不調に陥った方は、『無力感』『孤独感』『被害感』にさいなまれることが多い」という説明がありました。
- 無力感…日常生活も含めて、今までできていたことが、何もできなくなってしまう感覚
- 孤独感…何もできない自分には、もはや会社には居場所がないという感覚
- 被害感…こうなってしまったのは、会社・仕事のせいだという感覚
いずれも、メンタルヘルス不調により生じている(あるいは解消できていない)感覚であり、療養や復帰準備を通して、徐々に効力感を獲得し、関係性と自律性を取り戻し、職場復帰に向かっていく、とのことでした。
手順と様式を用いた対応が、本人の助けになる
この説明を聞いて、復職名人で行っている、手順と様式による対応が、こうした点にも手当できていることに気づきました。
孤独感を解消する
療養・復帰準備状況報告書の提出は週一回です。また会社から、受領書の返送を行いますので、一方的な報告や、一方的な聞き取りではなく、双方向のやり取りとなります。
単純な話ですが、月一回の電話連絡や面談よりも、頻回のコミュニケーションをとることになりますので、孤独感の解消につながります。
またこのやり取りを、復職に向けた手順の一環として、人事課が行うこともポイントです。
「会社の中に自分の居場所は残っている」「自分は(引き続き)会社の一員である」という、会社とつながりを残した感覚をより得やすくなります。
効力感を獲得する
療養・復帰準備状況報告書では、その週に取り組んだことのほかに、前週よりも改善できたことを報告してもらいます。
そのため、何をできるようになったのか、自分で毎週振り返るきっかけになります。
振り返りをせずにいつの間にかできるようになった、というよりも、定期的な振り返りにより、少しずつではあるもののできることが増えている感覚を得ることで、効力感を得ることになります。
被害感に折り合いをつける
会社のせい、仕事のせい、という感覚は分からなくもありませんが、一方で会社で働くということは、そうした気持ちに折り合いを付けなければいけません。
これは以前触れた、本音と建前というテーマにも、通ずるものです。
ただ、本人が折り合いを付けようとしている中で、本人の被害感に寄り添った対応は、被害感をより一層高めることになり、逆効果となるかもしれません。
会社からは、一定の距離感を保ちつつ、淡々と建前に沿った対応を説明する。少し時間がかかるかもしれませんが、これによりいつか折り合いをつけることができるようになります。
一見冷たく・厳しく感じられる、手順と様式による対応ですが、このように決して本人のことを考えていない対応ではなく、むしろ将来的なことも考えた本人のためになる対応なのです。