復職支援に関する質問|主治医診断書・家族対応・面接録音の正しい進め方

今回は、ある研修で寄せられた質問をもとに、復職支援における「よくある誤解」と、その本質的な解決策について考えてみたいと思います。

*本記事は「復職名人が読む三手先」第92回の内容をもとに構成しました。

「主治医の診断書を覆したい」という発想の危うさ

寄せられた質問

主治医が「復職可能」と記載した診断書を提出した場合でも、会社側が復職を拒否できる条件や要件にはどのようなものがありますか?

この質問の背景には、「復帰が難しそうなのにも関わらず、主治医の診断書が出てくることがあって困っている」という状況があるのでしょう。しかし、ここで考えていただきたいのは、本質的な問題は主治医ではなく、「休職者本人との認識のすり合わせができていないこと」にあるという点です。

このアプローチの問題点

まず法的な観点から言えば、仮に法的紛争に発展した場合、主治医が「復職可能」と診断書を出した後で、会社が復職を拒否しても、ほとんどの場合は専門家である主治医意見が優先されますので、会社が勝つことは難しいでしょう。その意味で、後出し的に会社が復職を拒否できる条件・要件はありません。

本来やるべきこと

復職支援において重要なのは、「後出し」ではなく「先出し」です。

  • 労使協議を経て合理的な基準を策定する
  • 療養開始時点から復帰基準を明確に伝える
  • 主治医に対しても、会社の復帰基準を事前に伝えておく
  • 週1回の報告などを通じて、本人との認識をすり合わせ続ける

休職は法的義務がある制度ではなく、あくまで福利厚生として位置付けられる制度です。そのため基本的にはどのような制度にするのか、会社に裁量があります。ただ、制度に具体的な定めがなければ、一般的な復帰可否判断の条件、すなわち主治医による「復職可能」という意見に拘束されがちです。
 そのため、「どのような状態になれば復帰できるか」という復帰基準を定め(衛生委員会などで労使協議を行うことが理想)、決めた通りに対応することが重要です。

事が起きてから基準を考えるのではなく、あらかじめどの事例に対しても適用する・適用できる基準を定めておく。かつ休職者が発生した後は、その基準を療養開始時点から一貫して伝え続ける。
 こうした先手を打った対応こそが不可欠です。

「週1報告で記載免除が続く場合」の考え方

寄せられた質問

休職中の報告書について、記載免除のチェック項目にチェックがあった場合、チェックが続く場合は復帰はまだ遠いという判断になりますか?

シンプルに考える

記載免除のチェックは、「療養に専念していますが、詳細な報告は負担になるため免除をお願いします」という意味です(そのように様式にも記載しています)。
 文字通り、詳細な報告さえ負担になる状態ということですから、復帰はまだ遠い(療養の初期段階にいる)と判断するのが自然です。

重要なのは「本人との共通認識にすること」

ここで大切なのは、この判断を担当者の心の内にとどめておかないことです。受領書で「療養専念期の初期段階にあると判断しています」と記載したり、面接の際に「現在は記載免除が続いているので、復帰まではまだしばらく時間がかかるものと判断しています」と伝えてください。
 また、「記載免除の翌週にいきなり復職可能の診断書が出てきた」という場合も、「先週まで報告は負担になると言っていたのに、急に復職可能と言われても判断できません」と返すことができます。

なおこうした事例に関わらず、療養段階に関する休職者と人事の共通認識は重要です。受領書などで都度伝えていくことを心がけましょう。

「家族の巻き込みはハードルが高い」という思い込み

寄せられた質問

家族を巻き込むことが効果的であることは理解できました。ただ、家族が高齢だったり、本人が家族に詳細を言っていなかったり、遠方だったりで協力が得にくい状況が想像でき、ハードルが高い気がしています。

「ハードル」は本当に高いのか

家族の関与については、よく質問がありますが、ここで問いたいのは、普段のお仕事は「ハードルが低い」簡単なことばかりなのでしょうか?ということです。そんなことはないでしょう。
 日々、専門職としてハードルの高い仕事をこなしていらっしゃるでしょうから、やるべきことがかなり明確なこの問題は、それほどハードルが高いというわけではないはずです。

会社外の人へのアプローチという点で、最初からハードルが高いと思ってしまうかもしれませんが、休復職における重要な関係者の一人である、と発想の転換をしていただきたいと思います。

まずやってみることが「コツ」

実際にやってみると、ほとんどのケースで、家族は協力してくれます。むしろ感謝されることも少なくありません。それほど休復職は家族にとっても一大事なのです。

「家族が高齢で会社まで来れない」と聞かれたら、「ご自宅やお近くまで説明に伺いましょうか」と提案しましょう。実際に行ってもいいですし、「いえ、行けます」と来てくださることも少なくありません。遠方の場合はオンライン参加という選択肢もあります。
 また、「病状の説明」ではなく「会社の制度の説明」なのですから、本人が家族に詳細を言っていなくても問題ありません。実際、私たちの面接シナリオでは、病名等については一切触れず、「○月○日から私傷病により療養を開始しています」とだけ伝えています。

逆に、家族を巻き込まずに休職満了を迎えると、後になって「親戚の方が怒鳴り込んでくる」といった事態になりかねません。先に巻き込むか、後で巻き込まれるか。選ぶべきは明らかです。

「面接時の録音」について

寄せられた質問

面接はICレコーダーで記録すべきという話を伺いました。本人が「やめてほしい」と希望を出してきたとき、録音をやめた方がいいのでしょうか?

何のための録音か

一見すると、面接における録音は、相手の不利な言動を記録するための行為のように見えます。

ただ、ここで一度立ち止まって考えてみてください。「正確な記録のために録音します」と言って録音を始め、そのまま面接シナリオを読み上げるとしたら、それは誰の発言の記録でしょうか?
 実は、シナリオに沿った面接では、会社側が説明すべきことを説明する形になります。つまり、録音は「自分たちが言い間違えていない」ことの記録であり、相手の言質を取るためのものではないのです。

従来型面談との違い

従来型の「面談」は、相手の要望を聞きながらも、実際には会社側の主張を通すために行われることが多いものでした。そうした面談で録音しようとすれば、トラブルになるのは当然です。

一方、シナリオに沿った「面接」は、伝えるべきことを淡々と伝える場です。録音の意味合いも、トラブルになるリスクも、根本的に異なります。

まとめ:復職支援の「本質」に立ち返る

今回取り上げた質問に共通しているのは、**「困っている状況を、そのままの枠組みで解決しようとしている」**という点です。

  • 主治医の診断書に困っている → 診断書を覆す方法を探す
  • 家族の協力が得にくい → 家族なしで進める方法を探す
  • 録音でトラブルになりそう → 録音の仕方を工夫する

しかし、本当に必要なのは「枠組み自体を見直すこと」です。

OSの変更が先

私たちの対応の中で、使えそうなところを従来型の対応に付け加える、いわゆる「トッピング」を考える前に、そもそもの対応のあり方や考え方(OS)を変更することが先決です。従来型対応の延長に私たちの対応があるわけではないので、従来型の対応のまま、使えそうな部分だけ導入しても、良い結果にはつながりません。

私たちの復職支援の本質は、労使双方が納得できる形で復帰基準を明確にし、療養開始時点から本人・主治医・家族との認識をすり合わせ、復職を真に成功させることにあります。

「後出し」ではなく「先出し」。「心の内」ではなく「明示」。このシンプルな原則に立ち返ることで、多くの問題は解決に向かうはずです。