休職期間満了が迫る休職者にどう対応するか

上司・人事

休職期間満了まであと数ヶ月。過去にも休復職を繰り返していて、正直なところ復職は難しいだろう。でも本人は制度を熟知していて、おそらくギリギリで復職可能の診断書を出してくる。どうしたらいいでしょうか

こうした相談は決して珍しくありません。むしろ、メンタルヘルス対応の中でも最も頭を悩ませるパターンの一つではないでしょうか。

本記事は「復職名人が読む三手先」第6回の内容をもとに構成しました。

「この事例にどう対応するか」と「今後の教訓」は分けて考える

この手の相談を受けたとき、私たちがまず考えるのは、目の前の事例への対応と、今後同じことを繰り返さないための教訓は、別の問題として切り分けるということです。

なぜこの切り分けが大事なのか。混同してしまうと「本来こうすべきだった」という理想論に引きずられて、今の状況では取れない手を打とうとしてしまうからです。休職期間満了3ヶ月前に「最初からこうしておけばよかった」と嘆いても、仕方ありません。
 一方で、次の同じような事例が生じたことのことを、今考えておかないと、より良い対応もできません。

この事例に対してできることと、今後の事例に対する教訓を冷静に分けて考える。これが対応の出発点です。

今さらバタバタしても遅い理由

療養中の放置が招く悪循環

この事例の根本にある問題は明確です。休職が始まってから満了間際まで、会社が何もしていなかった点にあります。

療養状況の報告を求めていない。
復帰基準を伝えていない。
コンタクトそのものを取っていない。

そうなると何が起きるかというと、会社と本人との間に情報の空白が生まれます。

会社側は「このまま辞めるのではないか」という根拠のない想定をします。一方、本人と主治医の間では「日常生活が支障なく送れるレベル」が療養のゴールとして共有されていきます。会社から復帰基準を伝えていなければ、本人も主治医も「普通に暮らせるようになったから復帰できる」と考えるのは当然でしょう。
 しかし、日常生活に支障がないことと、仕事ができることは別の話です。

コミュニケーションのない時間が長引けば長引くほど、会社への不信感が強まることも少なくありません。空白期間こそが、問題をこじらせる最大の要因なのです。

この時点でできることは限られている

では、この事例への対応として何をすれば良いか。満了3〜6ヶ月前のこの段階からできることは限られています。

今からでも療養状況の週1報告を求めることは可能です。療養中の状況報告を会社が求めること自体、何らおかしい話ではありません。ただし、この段階から「復帰させない」という方向に持っていくのは、まず無理だと考えてください。

復帰可能の診断書が出てきた場合、会社として「復帰不可」という判断を下す根拠が何もない状態では、基本的に復帰は消極的に許容せざるを得ません。

産業医頼み、主治医への直接コンタクトがうまくいかない理由

「医療アプローチ」の落とし穴

こうした場面で会社が期待しがちなことが二つあります。

一つは、「産業医から復職時期尚早という意見を出してほしい」。もう一つは、「産業医から主治医にコンタクトを取って、この人の復職は無理だと伝えてほしい」。

どちらも医療アプローチで問題を解決しようとする発想ですが、これはうまくいきません。

まず産業医が「復職不可」の意見を出し、休職期間満了退職となった場合、法的紛争に至った後で、それが裁判で通用するかという問題があります。職場寄りの産業医意見は信用性が認められにくく、主治医意見を覆すには足りないと判断されるケースが少なくありません。

産業医と主治医のコンタクトの問題点

「産業医から主治医に直接聞いてもらえばいいのでは」という考え方にも、構造的な問題があります。

臨床医学の世界では、医師同士が診療情報提供書をやりとりするのは日常的です。しかし、それは両方の医師と患者との間にそれぞれ医療契約があるからこそ成り立つ仕組みです。

産業医と主治医の関係はこれとは全く異なります。主治医と従業員の間に医療契約がある。従業員と会社の間に労働契約がある。会社と産業医の間に委託契約がある。一方で、産業医と主治医は、直接の契約関係はありません

情報が流れるとすれば、産業医が会社に提案し、会社が本人に指示し、本人が主治医に確認し、主治医が本人に答え、本人が会社に報告する。契約関係があるこのルートをたどるのが筋です。ここをすっ飛ばした直接のやりとりは、さまざまな問題を引き起こし得ます。

主治医への「インプット」の実態

そもそも、会社が産業医に「主治医と話してくれ」と頼む本当の狙いは何でしょうか。多くの場合、「聞いてほしい」のではなく、主治医が復職可能と言えなくなるような情報をインプットしてほしいのです。

しかし主治医にとっては、「企業の代弁者が圧力をかけに来た」としか映らないことがほとんどです。むしろ態度が硬化して、かえって事態が悪化する。博打のような対応を安易に引き受けるべきではありません。

この事例でやるべきこと

復帰の前提条件を再確認する

復帰可能の診断書が出てきた段階でもできることはあります。復帰するということは、元の労働条件に基づく労務提供を再開するということだと本人に明確に伝えること。これは就業規則や労働契約に書いてあることの再確認にすぎませんから、何の問題もありません。

「分かっていますか。それでも働くということでよろしいですか」と確認する。当たり前のことですが、この当たり前を伝えていない会社が非常に多いのです。

再療養要件を設定する

もう一つ重要なのが、再療養要件(ストップ要件)の設定です。復帰後に病状の再増悪が懸念されるような事象があった場合、速やかに療養に専念してもらうための条件を、この時点で定めておく。

復帰を認める以上、仕事はきちんと命じる。命じた仕事ができない、勤怠の乱れが見られるといった事実があれば、ストップ要件に基づいて再療養に持っていくことができます。

絶対にやってはいけないこと

逆に、この状況で最もまずいのは放置することです。産業医頼みも問題ですが、産業医頼みを期待して本人とのコンタクトをせずに待ち受けるのは、さらに悪い。それこそが今のような状況を生み出した原因そのものです。

「軽減勤務」の条件付き診断書が出てきたら

条件付き診断書には譲らない

実務でよくあるのが、「当面の間、6時間勤務が望ましい」といった条件付きの復職可能診断書です。

まだ3〜6ヶ月の猶予があるなら、今からでも復帰基準を本人に伝えることです。「条件付きの診断書については、通常勤務ができるとはいえず、復帰可否の検討に時間を要する可能性がある」と、ぼかした言い方でも構いません。要は、条件付きの診断書では復帰を認めないという姿勢を事前に示しておくことが大事です。

仮に条件付き診断書が出てきてしまった後でも、対応の方針は変わりません。復帰するということは元の労働条件で働くということであり、半日勤務や軽減勤務が必要だという意見は、「元の労働条件で働ける」とみなすことはできない。この論理で打ち返すことは可能です。

なぜ譲ってはいけないのか

ここで6時間勤務を認めてしまうとどうなるか。それは単に本人の希望通り、主治医の言う通りにしただけで、会社としての判断が何も含まれていない履歴が残ります。

紛争化した場合に問われるのは、会社の判断の一貫性です。あの時は認めた、この時はダメだと言った。そうしたブレの積み重ねが、会社側の立場を著しく弱くします。

過去の紆余曲折は今さら取り消せませんが、ここからの論理的一貫性を保つことは、今後の展開を左右します。

休職期間の延長という選択肢について

休職期間満了が迫り、まだ平行線の状態が続いている場合、「休職期間を延長する」という選択肢が頭をよぎるかもしれません。

延長が許容される場面はごく限定的です。会社としての検討自体がまだ完了しておらず、その検討に一定の時間が必要な場合、つまり手続き上の都合で休職期間が間に合わない場合に限って、必要な期間だけ延長の合意をする、というのはあり得ます。

しかし、先の見通しもなく、お茶を濁すような形で判断を先延ばしする延長は、やめるべきです。延長することによって相手の言い分を飲む余地があるかのような誤解を与えてはなりません。

延長した場合でも、延長期間の満了時点で条件付きの診断書のままなら、妥協しないという方針は変わりません。

今後同じ事態を繰り返さないために

ここまでは「今この事例にどう対応するか」の話でした。では、今後の教訓としてはどうすべきか。答えは明確です。

療養開始時からやるべきこと

療養が始まった時点から、復帰基準を明確に伝え、コンタクトを絶やさない。これに尽きます。

具体的には、復帰基準として業務基準、労務基準、健康基準の三つの側面を満たす必要があることを最初に説明します。主治医の意見はそのうちの健康基準という一側面を満たすにすぎず、診断書さえ出せば復帰できるという誤解を早い段階で払拭することが最も重要です。

療養期間中は週1回の療養状況報告を求め、受領書を発行する。報告のたびに復帰基準を確認し、軽減勤務や段階的復帰といった選択肢がないことを伝え続ける。

こうした対応を最初から一貫して行っていれば、「説明されていない」「聞いていない」という主張は成り立ちません。十分な説明を受け、その内容に当初は何の異論も唱えていなかった人が、後から後から条件を付けてくることは、まずありません。

就業規則の整備

可能であれば、復帰基準や通算規定を就業規則に明記しておくことも検討してください。「条件付き復帰は認めない」「通常勤務ができる状態での復帰が原則である」ということが規程として存在していれば、対応の根拠がより強固になります。

まとめ

休職期間満了間際になって慌てる事例の多くは、療養中の放置に起因しています。

  • 今の事例に対しては、再療養要件の設定と復帰条件の再確認を行い、論理的一貫性を保った対応をすること。
  • 今後に向けては、療養開始時から復帰基準を伝え、週1回の報告でコンタクトを維持すること。
  • 医療アプローチで解決しようとせず、あくまで業務アプローチで考えること。具体的には、産業医に「とりあえず面談してください」と丸投げせず、会社と従業員の二者間の労働契約に立ち戻って、やるべきことを粛々とやること。

それが、この問題への最も確実な対応方法です。