発達障害疑い事例における合理的配慮とは

上司・人事

職場で、発達障害が疑われる部下がいます。

他の同僚と同じような業務を命じても、ミスが非常に多いので、本人が苦手な業務を免除し、できそうな業務を割り当てるなどの配慮を行なっているのですが、状況が改善しない上に、業務量も職位相当10割とは到底いえない状況になっています。

合理的配慮としてどのような対応をすれば良いのでしょうか。

合理的配慮の基本

合理的配慮とは何か

こちらの投稿で詳しく解説をしているように、合理的配慮として、障害者に対して何らかの配慮をすることを求められているのではありません。あくまで、障害により生じている、能力発揮の妨げとなっている社会的障壁の除去が合理的配慮として求められていることです。

そのため端的に言えば、「本人が苦手な業務を免除し、できそうな業務を割り当てるなどの配慮」というのは、そもそも合理的配慮とは言い難い、単なる特別扱いをしている状態です。まずはこの点を理解する必要があります。

合理的配慮の提供対象は

また合理的配慮の提供が義務付けられている障害者とは、障害者雇用促進法にて下記のとおり定義されています。

障害者雇用促進法 第2条

1 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。第六号において同じ。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいう。

いわゆる障害者手帳等を取得している人に限らず、難病等で「長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な人」も含める点には、留意が必要です。

ただ今回はそのポイントではなく、「発達障害が疑われるだけのケース」は、そもそも合理的配慮の提供対象とはならないという点を、抑えていただきたいと思います。

だからと言って、こういったケースで受診を勧めるべき、診断を確定するべき、という話ではありません。

受診をさせても変わらない

発達障害が疑われるケースにおいて、よく精神科へ受診をさせようします。しかしながら、とりあえず受診はお勧めしません。

もちろん本人にとっては、診断がつくことで、適切な治療が始まったり、日頃の困難な状況の理由がわかり、その軽減に向けた対策を考えられるようになったりするなど、良いことはあるでしょう。そのため、本人が自ら必要だと考えて受診をすることを止めるつもりではありません(そもそも本人が受診するのを、会社は止めようがありません)。

一方で、受診をして仮に診断がついたとしても、職場でのお困りごとは直ちには解決しません。むしろ上記のように解決に向けて前向きに進んでいくことよりも、障害だから業務上の支障が生じても仕方がない、となってしまうことの方が多いでしょう。

どのように対応すれば良いか

合理的配慮の対象とならないケース

今回のように、合理的配慮の提供対象になっていないケースにおいて、どのように対応すれば良いかというと、業務上の指導を行う、ということにつきます。非常にシンプルです。

業務上のミスが多いということであれば、ミスをしないように、指摘・注意指導を行います。
 また、これまでの経緯の中で、指摘や注意指導は一度は行なっていると思いますが、改善されないからといって(あるいは発達障害だからと勝手に疑って)、指摘や注意指導をやめてはいけません。必ず、指摘や注意指導を淡々と繰り返します。

この際に、対応を進めていくコツは、徐々に関係者を巻き込んでいくことです。上司が指摘・注意指導しても改善しなければ、次は人事を巻き込んで対応する。それでも改善しなければ、上司の上司も巻き込む。それでも改善しなければ、家族にも同席してもらって対応する。これを繰り返していけば、事態が進展していきます(特に家族の関与が重要です)。

合理的配慮の対象となるケース

続いて、例えば今回のケースで診断がついて、発達障害だと確定したとしましょう。あるいは他のケースにおいて、障害であることをすでに知っていたとしましょう。

その場合は、会社・自治体として、職場における合理的配慮とは何か、合理的配慮に関してどのように考えているのか、伝えましょう。
 多くの場合、本人側で合理的配慮について正しい理解がなされていません(そのような診断書を数多く見てきました)。そのため、正しい説明をするだけで、本来あるべき合理的配慮の内容を考えていくことができる事例がほとんどです。

  • 上記のように、合理的配慮とは障害により生じている、能力発揮の妨げとなっている社会的障壁の除去であり、現状行われているような業務免除は、合理的配慮とは言えないこと
  • 社会的障壁が生じているのであれば、その除去のための合理的配慮については提供を検討するので、その内容については対話をして考えたいこと
  • ただしあくまで、完全な労務提供については、求めていかないといけない立場にあること

などを整理して(面接シナリオを作成することをお勧めします)、説明すると良いでしょう。

説明の面接シナリオについては、こちらの書籍にも取り上げておりますので(ケース6)、ぜひご確認くださいませ。