診断書が出てこない問題

休復職の場面で、「本人から診断書が出てこない」という問題の相談は、よくあります。どのように対応すれば良いでしょうか。

診断書が出ない、診断書を出せないと言われた、という問題

どのような問題か

ある従業員の様子がおかしいため療養が必要だと考えて、積極的に受診を勧めたものの、受診しても「療養が必要」という診断書が出てこない。本人に確認したところ「医者からは、診断書は出せないと言われた」とのことである。

療養中の職員。体調はまだ回復しておらず、しばらく療養が続くと思っていたところ、本人から「療養の継続が必要だという診断書が出なかったので、復職したい」と言われた。

このように、療養のために診断書が必要な場面で、受診しているにも関わらず、診断書が出てこないという問題です。

契約関係の整理

問題を深く理解するためには、契約関係を整理すると良いでしょう。

職場の健康管理における関係者として、本人と上司・人事、主治医、産業医、家族という6者がいます。それぞれの関係を整理すると、次の図のように繋がります。

まず会社(今回は上司と人事はここに含めます)と従業員は雇用契約関係があります。また患者(従業員)と主治医は暗黙の医療契約関係があります。会社と産業医は嘱託契約等があります。また従業員と家族は契約関係というよりは家族関係があります。

契約関係があるのは、この線で結ばれた部分だけです。線で結ばれていない部分、例えば会社と主治医、従業員と産業医、また主治医と産業医には、契約関係はありません。

そのため、こうした場面でよくありがちな、「主治医に対して、会社や産業医から問い合わせをする」という対応をしたとしても、そもそもの契約関係がない以上、主治医にとっては対応しなければならないものにはなりません。
 例えば、「患者のプライバシーに関わることですので、回答できません」と言われてしまえば、それ以上対応できません。

会社がやるべきことは

そもそも、会社はなぜ診断書を求めているのでしょうか。
 診断書は「療養のために仕事を休む必要があることの証明」として求めているはずです。

では診断書が出ないと、どのようになってしまうのでしょうか。思考実験的に考えてみましょう。

診断書が出ない状態をあらためて整理する

療養のための診断書が出てこないケース

ある従業員の様子がおかしいため療養が必要だと考えて、積極的に受診を勧めたものの、受診しても「療養が必要」という診断書が出てこない。本人に確認したところ「医者からは、診断書は出せないと言われた」とのことである。

上記のケースの場合、診断書が出ない=病気のために療養が必要な状態にはない、と判断します。

すると「様子がおかしい」という部分は、病気による仕方がないものではなく、本人が故意に行なっているものだということです。仮にそれが勤怠の乱れや仕事における重大なミスなど、業務上の支障だった場合、指導や処分の対象になり得るでしょう。ただそれだけのことです。

要するに、診断書が出て、業務上の支障が病気を理由としたものだとなれば、指導や処分は一旦保留して、病気による療養を認める。一方で、診断書が出ずに、業務上の支障が病気を理由としたものでないとなれば、通常の労務管理の一環として、指導や処分をすれば良い、ということです。

つまり、会社側からすれば、診断書が出ようが出まいが、それぞれの状況に応じた対応はあらかじめ決まっているのです。

療養の延長のための診断書が出てこないケース

療養中の職員。体調はまだ回復しておらず、しばらく療養が続くと思っていたところ、本人から「療養の継続が必要だという診断書が出なかったので、復職したい」と言われた。

上記のケースの場合、診断書が出ない=療養の延長のために必要な手続きが行なわれていない、と判断します。
 その一方で、復帰については復職プログラムに沿って、復帰基準を元に判断することになっています。そのため、単に療養の延長がなされないからといって、職場復帰を認めるべきではありません(認めても構いませんが、安全配慮義務の拡大につながります)。

すると、「療養は延長されないが、復帰は認められない」ということになります。あまり想定されていない状態ではありますが、勤怠上のステータスは、正当な理由のない欠勤状態と整理できます(正当な理由のないとは、病気欠勤など、就業規則等で定められた欠勤理由に該当しないということ。無届欠勤や無断欠勤とは異なる)。
 欠勤は労働契約上の労務提供義務を果たしていない状態ですから、処分の対象になりえます。

つまり、療養の延長のための手続きがなされるのであれば、療養の延長を認める。一方で、復帰可能な状態になっていないにも関わらず、療養の延長のための手続きがなされないのであれば、欠勤扱いとして処分する。
 先ほどのケースと同じく、会社側からすれば、診断書が出ようが出まいが、それぞれの状況に応じた対応はあらかじめ決まっているのです。

診断書が出ないことで困るのは本人

上記の整理はあくまでも思考実験的なものです。何でもかんでも処分すれば良いという話では決してありません。

お伝えしたいのは、診断書が出ないことは、会社側が困る話ではないのです。会社側とすれば、その状況に応じて、決められた対応を決められた通りに行えば良いだけです。
 一方で本人側にとっては、規則に沿って休むことができるか、それとも休めずに処分されるかは、大きな問題です。

つまり、診断書が出ないことで困るのは、本人なのです。

なぜか多くの場面では、本人はあまり困っておらず、会社側ばかりが困っています。そのため、上記の観点は決して忘れてはいけません。また、問題をそのように整理することを意識しましょう。

本人と主治医の契約関係に基づき、本人に提出を求めること

では会社としてはどのように対応すれば良いでしょうか。

先ほども言及した契約関係に立ち返って考えてみると、患者(従業員)と主治医は暗黙の医療契約関係があります。また会社と本人とは、労働契約関係があります。
 これらの関係に基づいて、あらためて療養のために必要な診断書の発行を依頼するように、本人に指示すれば良いのです。

また、「診断がついていないから、診断書が出せない」というケースもあります。その場合は、本人から主治医に対して、病名はともかく、療養が必要である旨の証明をしてほしいと依頼するよう、伝えれば良いでしょう。

本人側も休みたくないと思っていて、それを聞いたあるいは感じ取った主治医が、診断書を発行していないケースは、多くあります。
 ほとんどの事例において、診断書が出ない場合に会社が取ることになる対応を整理して伝え、診断書を発行することをあらためて指示すると、何事もなく診断書が出てきます。

繰り返しますが、療養のために必要な診断書を提出するように、本人に対して指示しましょう。