療養中の支援・対応

目次

復帰基準

復帰基準は、通常勤務ができることです。
 従来までの対応とは異なり、復帰直後からフルタイム勤務ができるように、療養中にしっかりと復帰に向けた準備をしてもらいます。会社としては、復帰準備が万全で業務に支障がないと判断できるまでは復職を許可しません。

療養中の対応

具体的には療養中は次のステップを踏んで対応します。各ステップで休職者本人から提出してもらう様式があり、ルールとマニュアルに沿って淡々と対応することになります。

1.療養開始

通常勤務できていないのであれば、休むしかありません(第二原則)。

療養説明の実施

療養開始したら、まずは出来るだけ早く、本人およびご家族に対して、面接を行います。

この面接では『療養説明書』を用いて、復職に向けた流れや、各段階における手続き、とくに復帰基準や原職復帰の原則など、会社の考え方を伝えます。

なおこの段階は本人の病状のために、具体的な説明が困難な状況(あるいは適切ではない場合)も想定されます。また説明したとしても理解されず、適切に手続きがなされない可能性もあります。
 そのため、基本的には本人への説明は簡単なものにとどめて、この段階からご家族と連携し、ご家族に具体的な説明をすることをお勧めしています。
 ご家族の同席が難しい場合は、少なくとも、ご家族宛に手引きを郵送して、電話で追って確認するなどの対応が必要でしょう。

主治医への復帰基準の通知

発行された診断書に対するお礼という形で、主治医に対して、会社の復帰基準を伝えます。

冷静に考えると、そもそも休職規程は法律上義務ではなく、会社によって復帰基準もまちまちであることから、主治医としても具体的な復帰基準を把握していないと、治療目標が不明瞭なまま進めざるをえないことになってしまいます。
 この早い段階で復帰基準を伝えることができれば、本人の治療にも有用であると言えるでしょう。そのため、遠慮することなく、適切な情報提供を行いましょう。
 また、場合によっては、本人の受診タイミングに同行して、会社の復帰基準を直接伝えることも有効です。

2.療養専念期

この期間は療養(服薬と休養)に専念する期間です。

そのため、この期間は、会社としてあまりできることはありません。もっと言えば、治療に関して会社ができることはほとんどないので、治療面に関して下手に会社が手出しせず、主治医とご家族に任せておくべきです。

一方で、休職中とはいえ従業員としての身分は残っているわけですから、必要な手続きに関してはしっかりと対応いただく必要があります。もし本人による対応が困難な場合は、家族による協力も認めているので、本人が家族を頼ればよいでしょう。

療養・復帰準備状況報告書の提出

療養開始時点から、『療養・復帰準備状況報告書』を、週一回、原則郵送にて報告書を提出してもらいます(復帰が完了するまで毎週続けてもらいます)。

本人が書くことが難しければ、家族による代理提出も可能です。もちろん提出が必要であることを本人やご家族に伝えていないと、提出されませんので、療養説明をしっかり行いましょう。

提出された報告書に対しては、受領書として受け取った連絡を返信します。報告書の記述内容から「異動や軽減勤務」に関する希望を読み取ることができた場合には、原職復帰の原則などについてそれとなく記載することで、緩やかな軌道修正を行いましょう。

4回連続提出ができたら、次の復帰準備期へと、進んだと判断します。そのため、復帰準備期に進むためには最低でも4週間は期間を要することになります。

報告書の位置づけ

この報告が適切に提出されるということは、会社としては、本人の復帰意思の表れとも考えられます。逆に意図的に提出しないということは、復帰する意思がないとも、考えられますので、適切な提出を求めましょう。

まず手を付けるならここから

この報告書は、後の復帰判断の際にその根拠としても役立つ記録になるだけでなく、休職期間中の本人や家族と会社との良好なコミュニケーションラインとなりますので、是非導入がおすすめです。

また、高尾メソッドを途中から適用する場合には、まずはこの週一回の療養・復帰準備状況報告書の提出からスタートすることが、軌道修正にも役立つでしょう。

3.復帰準備期

病状が安定し、復帰に向けて準備を進める期間です。復帰した後に「通常の労務管理下において仕事がきちんとできる」ようにするための重要な期間です。この期間で復帰基準を満たすことを目指して、復帰準備に取り組んでもらいます。

従来の対応では、療養がある程度進み、生活リズムが整って、通勤訓練ができたというくらいのタイミングで、「そろそろ復職したい」という本人から希望や、「復職可能。ただし軽減勤務からが望ましい。」というような主治医診断書が出てきていたのでは無いでしょうか。

しかし、復職名人の対応で言えば、この段階はまだ、療養専念期の後半から復帰準備期の前半にあたり、復帰はまだ先です。ここから復帰準備を進めて、復帰後に通常通り勤務することが可能となることを目指します。

この段階での対応が、復職名人では一番重要ですので、しっかりと確認していただければと思います。

復帰基準を達成するために、復帰準備に取り組む

復帰準備期は、療養段階が進み、病状が安定してきた後、復帰基準を達成するために、復帰準備をするための期間です。
 具体的には、徐々に業務に近い負荷をかけていき、最終的には業務と同等の負荷のもとで問題なく働くことができる状態まで準備します。

療養専念期においては、療養の報告を受けるだけで、特に会社からアクションを起こすことはありませんでしたが、復帰準備期からは本人の復帰準備に対して、業務遂行の観点からフィードバックを加えていきます。

療養モードから就業モードへ

復帰準備に何をするのか。それは端的に言えば療養モードから就業モードへ、本人の行動や考え方を変容することです。

療養モードとは、例えば「頑張らなくても良い」「マイペースにやれば良い」「苦手なことは他の人に任せれば良い」など、病院で行われる治療上のアドバイスのような考え方です。
 これ自体は、治療の初期には有用な考え方だと思いますが、一方でこの考え方のままで職場に復帰してしまうと、仕事に支障が生じることから、フォローしないといけない職場は困ります。

そのため、ここで言う就業モード、つまり「仕事には期限があるのだから、それに合わせて計画的に、頑張らないといけない」「一人でできる作業ばかりではないので、集団のペースも意識しなければならない」「苦手なことであっても、業務上必要なことは、やらないといけない」というような考え方に変容させて、仕事をする気持ちの面での準備もさせてから、復帰することを目指します。

『療養・復帰準備状況報告書』の提出

療養専念期にも使っていた報告書ですが、今度は復帰準備の状況報告として、継続して提出してもらいます。なお、療養専念期とは異なり、記載内容に対して、フィードバックを行っていきます。

例えば、「生活リズム、図書館で読書、ジムで体力づくり」という復帰準備を報告してきたとしましょう。

この三つは定番の復帰準備ですが、これができるからといって、復帰後に業務ができるかどうかとは全く別問題です。換言すれば、いわゆる必要条件ではあるものの、これだけでは十分条件は満たさないと言えます。
 つまり、もっと具体的に、より職務に近い準備が問題なくできる、ということが確認できなければ、会社としては復帰基準を満たしたとは判断できないでしょう。

そのため、このような報告が出てきた場合には、「もっと具体的な復帰準備を進めて報告するように」というフィードバックを行います。あるいは、療養前に問題となっていた就業上の支障について、復帰後に同じ問題が発生しないように、復帰準備を進めさせます。

『復帰準備完了確認シート』の提出

復帰準備が十分に進んだら『復帰準備完了確認シート』を提出してもらいます。この確認シートは、記入する過程で、職場復帰で求められる水準と自分の現状を再認識するための様式となっております。

各項目を見て頂けるとわかるかと思いますが、職場で働く以上は、全て最上位につけることができていないと職場としては困る内容となっています。また反対に、職場で働く以上は、本人が「最上位には○をつけられない」といっている間は、会社として復職を認めることはできない、とも言えます。
 さらに、書類で確認するということは、記録としても残りますので、全て最上位に○がつくまで、次の手続きに進むことはありません。

そのため、もし、不完全なシートが出てきた場合は、復職準備の継続を命じて、最上位に○がつくまで再提出を促しましょう。

なお、確認シートは、本人から自主的に提出させてもいいですし、人事から提出を促しても構いません。

復帰判定予備面接の実施

復帰準備完了確認シートで、全て最上位に○がついた段階で、復帰判定予備面接を実施します。

この段階で確認するのは、体調の確認ではなく、仕事ができそうかどうかです。健康面での評価は一切必要ありません(ただ、少なくとも復帰準備を行っても差し支えない程度の健康状態にあることは、療養専念期から復帰準備期への移行の際に確認していることになります)。そのため、面接の参加者は本人・家族・人事・上司となります。

この面接で、参加者全員が問題ないと判断できた時点で、次の復帰検討期へと進みます。

イメージは経験者採用時の面接

メンタルヘルス不調者との面接と言われても難しいと思われるかもしれません。しかし、繰り返しですがあくまで労務面・業務面を確認すれば良いのです。そのため、経験者採用時の面接をイメージすると分かりやすいです。

例えば、採用面接時に、応募者が履歴書や職務経歴書に、「●●の業務経験があります」と記述していた場合を考えてみます。
 会社としては、この記述からだけでは、この応募者が本当に期待する業務をできるかどうか判断できないでしょう(もしそんな面接をしているのであれば、すぐに改めた方が良いでしょう)。より具体的に、どのような業務の経験があるかとか、どれくらいのボリュームの業務を行ってきたのかとか、質問して内容を確認し、判断するはずです。

それと同じく、本人からの完了確認シートの提出、あるいは発言だけで、仕事ができるかどうか判断することはできません。その根拠やこれまでの復帰準備の状況を本人に説明してもらい、内容を会社が妥当であると判断してから、次のステップに進みます。

休職事由の消滅し復帰できることの説明は労働者側が行う

ここで重要なことは、本人に説明させることです。本人の説明が不十分であるうちは、会社としては復職を認めることはできません。ただし「復帰検討期へ進めない」と直截的に言うと、厳しく聞こえますので、「復帰検討期へ進んでよいか判断できない」と表現すると良いでしょう。

主治医よりも先に、上司・人事が判断する

もう一点重要なことは、主治医が健康上の観点から復職可否を判断する前に、会社として業務上および勤怠上の観点から復職可否を(予備的に)判断するということです。この順序を意識しましょう。

4.復帰検討期

実際に復帰可能な程度にまで回復しているかどうか、慎重に判断する時期です。『復帰申請書』と『主治医意見書』、そしてこれまでに提出された書類をもとに、最終的な復帰判定を行います。関係者全員の意見がそろってから、正式な復職を発令します。

『主治医意見書』の聴取について

主治医に対しては、一般的な自由様式の診断書ではなく、『主治医意見書』の様式を用いて、意見を聴取します。

この様式は、表面(ないしは別紙)に会社の定める復帰基準や職場で行いうる配慮について説明が書かれており、裏面で主治医の意見を聴取するようになっております。

キーポイントとしては、主治医には、定められた労働条件の下で「復職させてもよいか」、それとも「療養延長が望ましいか」をYESかNOかで質問することにあります。
 自由記述の診断書だと、想定していない配慮や、不必要な条件について記述されることがあります。しかし、本来労働条件に関わる事項は、本人と会社の二者間で合意した契約内容であり、主治医の判断により左右されるものではないはずです。

あくまで主治医に意見を問いたいことは、定めた条件で働かせることについて、ドクターストップするかどうか、という点のみです。

『主治医意見書』の様式で確認することで、この点に沿った意見を聴取することが可能となります。

復帰判定面接の実施

同様の様式で産業医にも意見を聴取し、最終的に復帰判定を行う、面接を実施します。

なお、主治医と産業医どちらから先に意見を聴取するかは、会社によって(もっと言えば、産業医の関与の仕方によって)変わってきて差し支えありません。
 平たく言えば、産業医が積極的に関与している事業所においては、主治医より先に意見を聴取したほうがうまく機能する場合が多く、その逆の場合においては、先に主治医の意見を聴取しておき、主治医意見を踏まえて産業医としての意見を確認する方が良い場合が多いようです。

復帰判定面接においては、改めて本人の復職意思を確認し、関係者“全員”が復職について不安(具体的に指摘しうる懸念事項)がないことを確認します。例えば、本人や家族がフルタイム勤務に不安を抱えていたり、上司が本人の発言内容から期待役割を果たしてもらえるかどうかに課題を感じたりした場合には、復職判定を保留し、復帰を延期します。

またこのタイミングで改めて、復帰後の配慮事項と、ストップ要件についても確認しておきましょう。

復帰後の配慮

復帰後の配慮内容は基本的には、

  • 復帰後1ヶ月間は残業なし(産業医学的配慮)
  • 2ヶ月目からは徐々に残業も命じる(上司による段階的配慮)
  • 3ヶ月目からは通常の労働者と同じ程度の時間外労働を命じる

と段階的な配慮を基本としています。

2ヶ月目が少しわかりにくいので補足すると、イメージとしては、新入社員と同じで、いきなり他の社員と同じ水準の残業を命じることはせず、まさにビジネス的な観点から、上司の裁量で徐々に時間外労働を命じるということです。

これに加えて、「通院への配慮」も1ヶ月間行います。具体的には通院時の有給休暇取得に際して、通常は労働者側の責務である業務申し送りの免除を行います(上司が代わりに行うとよい)。

ストップ要件

ストップ要件は具体的には、「復帰後、任意の1ヶ月において、遅刻・早退・欠勤・事前申請のない有給休暇『申請』などが3回あった場合は、再療養を命じる」という条件をお勧めしています。

これらは復職がうまくいったときではなく、残念ながらうまくいかなかったときに効力を発揮します。
 あらかじめ配慮内容やストップ要件を本人およびご家族に伝えておくことで、いざとなった時に初めて説明するよりも遥かにスムーズに、本人や家族の納得も得やすく、再療養を命じることができます。

5.復帰支援期

復帰後に一定期間の配慮を実施する期間です。基本的にはあらかじめ定めておいた配慮のみを限定的に実施し、なおかつ配慮は自動解除で行います。

ここまで手順通り対応していれば、従来型対応とは異なり、ほとんど苦労することなく復帰支援期を終えることができるはずです。

問題があったとしても、復帰後ストップ要件に該当する場合や、予定通り配慮を解除できない場合は再療養を命じることになることを、あらかじめ復帰前に確認していますので、円滑に再療養導入できます。

『業務評価表』の提出

復帰支援期において、業務評価を実施しますが、まず業務内容と自己評価を本人に記載させ、上司は確認のみとする様式にしています。これにより、上司の負担を軽減するとともに、効率化を行います。

ただし、これだけ簡単なフォローで問題がないのは、これまでの十分な復帰準備や入念な復帰検討によるものです。この様式だけ使っても意味がないことはご理解ください。

上司は本人が作成した業務評価表に基づき、業務面でのフィードバックを行います。復帰時点で、通常勤務できる、あるいは、病気により業務ができないということがない、ということを確認していますから、通常の社員に対する場合と同じく、業務的健康管理に基づき、できていない事項については、きちんと指摘のうえ、指導してください。

なお、通常勤務に支障があると判断した場合(ストップ要件に該当する場合や配慮が解除できない場合も含む)には、『労務評価表』による確認や産業医面接などを通して、再療養の必要性を確認して、必要であれば速やかに再療養を命じます。

目次