メンタルヘルス不調者の復職判定基準と手順

主治医から「復職可能」の診断書が出た。ではそのまま復帰させてよいのか。

この判断に迷う人事担当者は少なくないでしょう。「医師が大丈夫と言っているのだから」と復帰を認めた結果、復帰後に勤怠が安定せず、再休職に至るケースは珍しくありません。

復職判定は、主治医の診断書を受け取って終わりではありません。会社が主体的に判断すべきプロセスです。この記事では、復帰基準の三つの柱、判定のプロセス、そして多くの企業が陥る失敗パターンまで、復職判定の全体像を整理しています。

*この記事は企業の人事担当者・産業保健スタッフ向けに書かれています。

復帰基準の三つの柱 — 業務基準・労務基準・健康基準

復職名人では、復帰基準として三つの基準を定めています。

  1. 業務基準:元職場・元職位・元職務で、職位相当の業務遂行が10割できること。判断者は上司。
  2. 労務基準:就業規則を遵守し、所定労働時間の勤務が可能であること。判断者は人事。
  3. 健康基準:業務による健康悪化リスクが最小化されていること。判断者は主治医・産業医。

いずれも、6カ月以上安定継続的に可能と見込まれることが前提です。

業務基準|上司が判断する「職位相当10割」

業務基準は、元の職場で以前と同じ仕事を職位相当10割の水準でできることです。

なお復帰先は「元職場・元職位・元職務」が原則です(原職復帰の原則)。本人の希望や主治医の意見に基づく配置転換は認めません。
 完全な労務提供が可能であれば原職で差し支えなく、配置転換が「治療の一環」で必要ならそれは治療途上、つまり復帰時期尚早だと考えます。

労務基準|人事が判断する「就業規則遵守」

労務基準は、就業規則・服務規律を守り、所定労働時間の勤務ができることです。

ここで重要なのは、ルール(労務基準)はパフォーマンス(業務基準)より重いということです。業務遂行レベルについては「本人がやります」と言っている限り、波があってもやや許容しますが、勤怠に波があってはいけませんが、。1分の遅刻でも不許容。当日連絡の有給休暇も勤怠上の問題として計上します。

健康基準|主治医・産業医が判断する「悪化リスクの最小化」

健康基準は、健康上の問題による業務支障がなく、業務により健康上の問題が悪化するリスクが最小化されていることです。

AMA(米国医師会)のガイドラインでは、就業能力をリスク(業務による害の可能性)、キャパシティ(測定可能な能力)、トレランス(本人の選好に依存する問題)の三つに分類しています。
 このように整理すると、精神疾患の復職評価では「ほとんどがトレランスの問題」です。つまり、主治医の「異動が望ましい」「業務軽減が必要」といった意見の多くは、本人の選好の問題であり、本来は医師が口を挟むべき領域ではありません。

復職判定と「採用面接」

復職判定の本質をひとことで言えば、採用面接と同じ構造です。特に中途採用がイメージにぴったりです。

会社が採用基準を示し、本人が基準を満たしていることを、履歴書や職務経歴書などで示し、面接で説明する。会社は応募書類や本人の説明を聞いて、採用基準を満たしているかどうか判断する。
 採用面接で応募者が自分の適性を証明するのと同じように、復帰する従業員が「通常勤務ができる」ことを説明し、会社がそれを判断するのです。

復帰基準を満たせることを示すのは労働者側

会社が「この人は復帰できるだろうか」と探してあげる必要はありません。まだ復帰できない理由を、明確に示してあげる必要もありません。

そもそも休職事由は私傷病であり、その休職事由が消滅し、通常勤務ができる状態に戻ったことは労働者側に示してもらわなければなりません。本人が復帰できることを説明し、会社がそれを判断する。この順序が重要です。

なお、私たちは「復職支援プログラム」ではなく「復職プログラム」と呼んでいます。「支援」の語が「全て自分の希望通りに支援してくれる」というマインドを誘発するからです。

主治医の「復帰可」は判断材料の一つにすぎない

主治医が判断できるのは健康基準だけです。職位相当の業務を遂行できるか(業務基準)、就業規則を守り所定労働時間勤務できるか(労務基準)は、医師には判断のしようがありません。

冷静に考えてみてください。採用面接に産業医が同席したとして、「この人を採用してよいかどうか」を判断できるでしょうか。できません。それと同じことです。

主治医の診断書は判断材料の一つであり、復帰可否の最終判断は会社が行うものです。

復帰判定のプロセス — 予備面接から青信号理論まで

復帰判定は以下のプロセスで進めます。

予備面接で、復帰準備が完了しているか判断する

復帰判定の第一段階として、復帰準備が完了しているか予備的に判断する予備面接を実施します。

予備面接での確認ポイントは四つです。

  1. 職位相当の業務遂行が可能か。その準備ができているか
  2. 就業規則・服務規律を遵守して就業可能か
  3. 報告書・確認チェックリストに懸念点はないか
  4. 療養前の問題への再発防止策は準備されているか

判断の方向性にも注意が必要です。「できていないと言えるか、できていないとまでは言えないか」ではなく、「できていると言えるか、できているとは言えないか」で考えてください。前者の方向で考えると、時期尚早な復帰を許容してしまいます。

「主治医より先に会社が判断して法的に問題ないか」という懸念があるかもしれません。しかし、判断の責任主体は常に会社であり、業務基準・労務基準は医師の管轄外ですから、法的問題が発生しうる余地はありません。

主治医意見書で主治医意見の聴取をする

予備面接に合格したら、主治医意見書の様式を用い、復帰に関して問題ないか、医師意見を確認します。

繰り返しますが、あくまで健康基準に関して、主治医意見を聞くことが重要です。
 なお自由記述の診断書の使用はお勧めしていません。会社があらかじめ医師に聞くべきことを整理した上で、様式に落とし込んでそれを尋ねる、という姿勢が求められます。

産業医意見を聴取する

主治医意見と産業医意見のどちらが先が良いかは、各社の状況に応じてお任せしていますが、産業医意見も聴取します。
 主治医同様に、あくまで健康基準に関して意見聴取することが重要です。

なお復帰判定面接の場で簡単に確認する方法でも構いません。

復帰判定面接

本人・家族・上司・人事(+産業医)による面接を実施して、復帰基準を満たせることを一つ一つ確認した上で復帰可否を判断します。またこの場でストップ要件の確認も行います。

復帰の最終判定は「青信号理論」で行います。上司・人事・主治医・産業医の関係者全員が一致して「復職可(青信号)」の場合にのみ復帰を認めます。一人でも「赤」や「黄」があれば復帰は延期です。多数決ではありません。

復帰判定後の安全弁 — ストップ要件と配慮期間

復帰判定が完璧でなくても、ストップ要件を事前合意しておけば、時期尚早な復職であっても速やかに療養に戻すことができます。

具体的には、「原疾患の再増悪に起因することが否定できない遅刻・早退・欠勤等が復帰後の任意の1ヶ月間に3回以上で再療養」という再療養要件を、復職時に本人・家族と合意します。

また復帰後の配慮は「時間外労働の免除のみ、最長2週間、1回限り」が原則です。配慮から入ると対応が迷走します。配慮は「例外」であって「原則」ではありません。

復帰判定でよくある失敗パターン

業界で「常識」とされている対応の中に、復職判定の失敗を引き起こすパターンがいくつかあります。

治療ゴールと労務提供の水準のギャップ

一般的な治療上のゴールは「日常生活が送れるようになり、出勤できる程度の回復」です。しかし労働契約が求めるのは「元職場・元職位・元職務で職位相当の10割」。このギャップは小さくありません。

このギャップを埋める期間が「復帰準備期」です。復帰準備を十分に行わないまま復帰させれば、復帰後に問題が出るのは当然の帰結でしょう。

「主治医が復帰可と言えば復帰」の落とし穴

繰り返しになりますが、主治医の判断は健康基準のみです。通常勤務ができない状態で職場に戻すことは、安全配慮義務の不履行状態を自ら作り出していることに他なりません

安全配慮義務の最大の履行とは「休ませること」です。不完全な状態で復帰を認め、その後不完全な労務提供を受領し続けることは、予見可能性を高め続けていることと同義であり、後から振り返れば安全配慮義務違反が成立しやすくなります。

リワーク修了は「復職可能」を意味しない

リワークプログラムを修了したと聞くと、復帰の準備が整ったように感じるかもしれません。しかし、リワークはプログラムにより到達点はまちまちであり、「リワーク修了」=労働契約上の「完全な労務提供が可能」とは必ずしもなりません。

通常勤務ができる状態にあることを、リワーク報告だけでなく、本人からの報告で説明してもらうことが重要と言えるでしょう。

試し出勤・段階的復帰に頼る危険

試し出勤で簡単な作業をさせても、本業遂行の判断材料にはなりません。簡単な作業がこなせたからといって職位相当の業務を遂行できる保証にはならず、逆にできなかったとしてもそれを本業不能の根拠にすることも困難です。

職位相当の作業をさせれば判断できるのではないか、と思われるかもしれません。しかし、それはもはや復職と同じことです。

ストップ要件を設定した上で復職を認める方が、はるかにシンプルかつ実用的です。


主治医から「復帰可能」の診断書が出たら、企業は復帰を認めなければならないのか?

当然に認めなければならないというわけではありません。主治医意見書だけだと判断材料が足りないとも言えるでしょう。復帰に関する三基準(業務基準・労務基準・健康基準)のうち、主治医が判断できるのは健康基準のみです。業務基準は上司が、労務基準は人事が判断します。三つの基準すべてを満たし、6カ月以上安定継続的に勤務可能と見込まれることが復帰の条件です。復帰可否の最終判断は会社が行うものであり、主治医の診断書は判断材料の一つにすぎません。

復職判定の基準が厳しすぎると従業員から反発された場合、どう対応すべきか?

復帰基準は「通常勤務ができること」であり、これは労働契約において、会社と労働者の双方が前提としているものです。通常勤務ができないかもしれない状態で復帰を認めてしまうことの方が本来おかしいのです。
 前向きに捉えれば、従来とは異なり、復帰基準が明確になっていることは従業員本人にとっても「何ができるようになれば復帰できるか」が明らかになるメリットがあります。また、全従業員に一律適用されるため恣意的な運用を排除し公平性を担保します。

復帰判定において産業医はどのような役割を果たすのか?

産業医の役割は、三基準のうち健康基準に関する意見の提供です。業務従事による健康悪化リスクの評価が中心であり、業務遂行能力の回復や勤怠の安定性については判断の管轄外です。復帰判定では、上司(業務基準)・人事(労務基準)・主治医および産業医(健康基準)がそれぞれの領域を判断し、関係者全員が「復帰可」と判断した場合にのみ復帰を認める「青信号理論」で運用します。

復帰判定で「試し出勤」や「軽減勤務からの段階的復帰」は有効か?

いずれも推奨しません。試し出勤で簡単な作業をさせても本業遂行能力の判断材料にならず、職位相当の作業をさせるなら復職させるのと同じです。段階的復帰は配慮の長期化・同僚への負担転嫁を招きやすく、典型的な失敗パターンです。復帰基準を満たすまで復帰準備を継続してもらい、復帰後は「ストップ要件」(一定回数の勤怠問題で再療養)を事前合意する方がシンプルかつ実用的です。