コラム

専門家に専門外のことを聞かない

主治医に「どのようにしたら働けますか?」とか「どのような配慮が必要ですか?」と聞いていませんか?これは場合によっては、専門家に専門外のことを尋ねているかもしれません。

専門家とは

専門家と専門領域

私自身も、社会保険労務士や中小企業診断士としての資格を持ち、ある種の専門家として活動をしています。しかしながら、不勉強なこともあり、「自分は●●分野の専門家である」と自信をもって言える領域は広くありません。

では、「●●分野の専門家である」と胸を張っていえるのは、どのような状態か。それはその領域に関する知識だけでなく、様々な経験を通して、白黒つけ難いものに対して、助言ができる状態であると考えます。
 例えば、私たちのような士業に対して質問をされた際に、行政のような回答しかしていないと、士業としての役割を果たしているとは言えません。行政の窓口へ行けば済む話ですから。

そうではなく、なぜそのような質問をするのかという顧客にニーズを踏まえて、適切な対処方法をお伝えすること、疑問が浮くのは解釈がはっきりしないものであることが多いので、ある種グレー状態のものに対してアドバイスできること、これができて、専門家と胸を張って言える状態です。

専門家も専門外のことを答えてしまうが・・・?

とはいえ、専門家に専門外のことを聞いても、「そんなの知りません」とは言えませんから、何かしら答えてくれます。
 でもそれって、八百屋さんへ行って、「お魚ありませんか?」と聞き、八百屋さんも親切なもので、自分の家の冷蔵庫にあるお魚を持ってきてくれる、というような状態です。

専門外のことを答える場合、二つの回答のパターンがあります。一つは、専門家自身が「これは専門外である」とよく認識していて、いろいろと調べて回答するパターン。どのような回答が返ってくるかというと、教科書通り、制度通りの回答が返ってきます。前述の通り、期待していない回答が返ってくるわけですね。
 もう一つは、あまりそのような認識がないまま、専門領域の考え方を用いて専門外のことを回答するパターンです。例えば、主治医に「どのようにしたら働けますか?」とか「どのような配慮が必要ですか?」と聞いてしまいがちですが、主治医は病気や治療の専門家であっても、働かせることの専門家ではありません。すると、「患者の生命・健康が第一」という医療の考え方に基づいた、配慮事項の提案をされるケースが少なくありません。
 一見すると、「先生がおっしゃることはもっともだ」と思えるような内容です。しかし、「職場は働く場所である」という大原則に立ち返って考えてみると、「こんな配慮をしていいんだろうか」というようなものになりがちです。

解決策

専門家には専門領域のことを正しく聞く

誤解しないでいただきたいのですが、回答をくれた専門家(この場合は主治医)が悪いと言っているのではありません。そうではなく、専門家に専門外のことを聞いた方が悪いのです。

例えば、働かせ方や配慮については、労働契約や就業規則に基づいて会社が決めるものであるのですから、あらかじめ働かせ方や配慮事項について決めます。その上で、主治医に対して「このような働かせ方をします。配慮事項は以下の内容しか行いません。本人も問題ないと言っています。その上で復帰させることについて、ドクターストップをされますか?それともドクターストップまではしませんか?」という聞き方をすれば、主治医の専門領域に限局した意見を聞けるはずです。

要するに、主治医意見書を活用しましょう。

専門家として専門外のことを答える際には注意する

これは自戒を込めた内容ですが、専門家として専門外のことを回答しようとした際には、「これは専門外である」ということよく認識した上で、役に立たないかもしれないけど、マイナスにもならないような、教科書的な対応、原則的な対応を心がける必要があると考えます。

そして、真に顧客の役に立つためには、専門領域を増やしていくことももちろん重要ですが、それと同時に真の専門家を増やしていくことも重要です。

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