事例紹介

異動の内示をしたところ、診断書を提出して、異動を拒否する事例

人事・上司

メンタルヘルス不調により、お休みしたことがある従業員がいます。復帰後数年が経過し、大きな問題はなかったことから、他の従業員と同じように定期異動をすることとなり、先日内示を行いました。

ところがその数日後「異動して慣れない環境になると、適応障害が悪化する恐れがあるので、異動はさせるべきではない」という旨の診断書が提出され、本人は異動を拒否しています。

どのように対応すれば良いでしょうか。

考え方は、復職時の異動希望と同じ

診断書を用いた、事実上の異動拒否は、考え方としては復職時の異動希望と同じです。

下記でも説明しているように、日本の正社員は、どの勤務地でも・どの部署でも・どんな業務でも・命ぜられれば時間外でも、仕事をすることが求められています。

復職時の異動希望は、どこの部署でも働けることが求められているにも関わらず、元の職場で働くと病状が悪化する恐れがある、ということであり、正社員としての職務無限定性が維持されません。そのため、完全な労務提供ができる状態にあるとは言えない、という判断をすることとなります。

今回の相談もこれ同じで、本来どこの部署でも働けることが求められているにも関わらず、部署の異動をすると病状が悪化する恐れがある、ということであり、やはり正社員としての職務無限定性が維持されないのです。

これは何も、労働者に対して厳しいことばかりを求めているということではありません。例えば、企業側に広範な人事権の行使を認める一方で、解雇回避については最大限の努力をすることが求められており、裏を返せば、労働者の雇用は手厚く守られる、ということになります。

実際の対応

通常勤務をするか=異動をするか、療養するかの2択

基本的にはいつもの2択である、「通常勤務をするか、療養するか」を本人に選択させます。今回の場合は通常勤務をする=内示された通り異動する、ですね。

ただ、「異動をさせると病状が悪化する恐れがある」という主治医意見が出ていますから、これを無視して異動を強行することはできません。
 そのため、本人が通常勤務を選択した場合には、「異動をさせても問題ないか、それともやはり異動をさせると病状が悪化する恐れがあるので、異動はさせずに療養させた方が良いか」という聞き方で、主治医意見を再度確認します。

主治医も「異動をさせても問題ない」というのであれば、ストップ要件だけは設定した上で、予定通り異動をさせます。一方で、異動をさせると病状が悪化する恐れがあるので、やはり療養が必要だという意見が出た場合には、療養をさせます。

他の従業員への影響は無視できるのか

現実的な問題としても、多くの場合定期の人事異動は、人員の入れ替えです。そのためこの従業員を異動させないと、本来この部署に異動してくるはずの従業員の異動にも、影響が出かねません。
 仮に異動を取りやめにする、という対応をした場合に、異動してくるはずだった従業員の立場で考えれば、「自分のキャリアプランも、会社にとってはその程度の問題なのか」と思わざるを得ないでしょう。(実際に、ある従業員が長期休職となったため、別の従業員に異動してきてもらい、復帰後定員が余剰になった事例がありました。その部署における経験年数からも、あるいは貢献度からも、わざわざ異動してきてくれた従業員はもうしばらくは残し、復帰した従業員を異動させるという常識的な選択を人事は取りました。ところが本人やご家族から「その補充要員をまた異動させれば良いだろう!」と主張してきたのです。これには、流石に温厚だった人事部長も「当社の他の従業員のキャリアをなんだと思っているんですか!」と激怒し、本人やご家族もハッとしたようです)。

確かに結果だけ見たら、「本人を休ませるためにあえて異動させるのか」という誤った見方もできるのかもしれませんが、そうではありません。そもそも異動できない健康状態にあることが問題であって、それならば異動もできる状態まで、再度療養してから復帰してもらえば良い、というだけの話です。

-事例紹介
-, ,