メンタルヘルス不調の従業員が出たとき、人事担当者はまず何をすればよいのか。
診断書が出てきたらどう扱うのか。
休職期間満了が迫ってきたらどうするのか。
休職・復職制度は多くの企業に存在しますが、制度があることと、制度を適切に運用できることは別の話です。制度の位置づけを誤解したまま運用すると、対応が後手に回り、復職のタイミングを逸し、難しい事例を自ら作り出してしまいます。
この記事では、休職制度の法的位置づけから、療養への入り方、療養中の管理、復帰判定、休職期間満了の実務、退職対応まで、休職・復職制度の全体像をまとめています。
*この記事は企業の人事担当者・産業保健スタッフ向けに書かれています。
休職制度は「解雇猶予措置」である
まず押さえておくべきは、休職制度は法律で義務づけられた制度ではないということです。
休職制度は、解雇猶予制度です。私傷病により労務提供ができない状態が続けば、本来は解雇事由に該当します。しかし、一定の猶予期間を設けて回復を待つ。それが休職制度の本質です。
復帰を前提とした猶予であり、休職は労働者の「権利」ではなく会社が命じるものです。

就業規則における休職制度の設計ポイント
休職期間は最低9カ月を推奨しています。J-ECHO調査研究では、メンタルヘルス不調者の復帰について、6カ月の設定では復帰率が6割未満にとどまることが分かっています。
そのため、9ヶ月を下回る規程になっている企業は、9ヶ月以上に延長することを推奨しています。
もう一つ重要なのが通算規程です。休復職を繰り返す場合に備え、休職期間を通算する規程がなければ、休復職のたびに期間がリセットされ、事実上「永久に休職できる」状態になります。
上記延長と合わせて、整備すると良いでしょう。
なお休職発令時には、満了日を事務的に通知する手続きを組み込んでおきます。療養当初から全例に通知しておけば、本人もただの事務連絡として受け取りやすく、後になって「聞いていない」というトラブルを防げます。

療養への入り方 — 2ステップ受診
従業員に問題行動が見られたとき、「とりあえず病院に行ってきて」と受診を勧めていないでしょうか。
この「ノープラン受診」は、問題を解決しません。診断がついても、勤怠の乱れや業務支障が自動的に解消されるわけではないからです。事例性(業務上の問題)と疾病性(病気の有無)は独立した事象です。
私たちが推奨するのは2ステップ受診です。まず会社として方針を決め、その上で必要な診断書を求めます。 方針を決めるために診断書を取るのではありません。
2ステップ受診の概要
- 通常勤務ができていない本人に対して面接を実施し、直ちに改善し通常勤務するか、療養に専念するか選択させる
- 通常勤務をすることを選択した場合、「通常勤務が可能か、療養が必要か」の二択で主治医意見を取ってくることを求め、通常勤務可能との回答があれば就業を認めます
- 通常勤務ができるという前提ですから、通常勤務を命じ、業務上の支障があれば指摘をします。
- 指摘しても改善しなければ、再度面接を実施して、療養に専念することを強く推奨しつつ、2.を再度確認します。本人が就業困難を自覚した段階で改めて受診させ、療養が必要との診断書を得て休職へと繋げます。

無断欠勤や突然の診断書提出への対応
療養の説明を経ずに突然休み始めた場合はどうするか。
手続きの順序は明確です。(1)まず無届欠勤として整理し、(2)「無届欠勤」か「病気欠勤」かを本人に選択させ、(3)病気欠勤を選択した場合は欠勤届を主たる書類とし、診断書をその添付書類として提出を指示します。主たる書類は「欠勤届」であり、診断書ではありません。
口頭で「医師から療養が必要と言われた」と報告しながら診断書を出さないケースもあります。しかし、療養が必要という情報を把握した以上、そのまま就業させることは安全配慮義務上の問題が生じます。労務提供を受領するかは一旦保留し(平たく言えば一旦休業を命じ)、必要な手続きを取ることを本人に対応を求め、応じなければ家族にも連絡します。

復職プログラムの概要
療養の4段階
療養は四つの段階に分けて管理します。
- 療養専念期:療養に専念する期間。週1報告を提出。
- 復帰準備期:具体的な復帰準備を進める期間。週1報告を継続。
- 復帰検討期:予備面接→主治医意見書→復帰判定を行う期間。
- 復帰支援期:通常勤務+限定的配慮→配慮解除の期間。
週1報告は療養開始から復帰まで一貫して求めます。手書き・郵送が基本で、メンタル・フィジカルの区別なく全例に事務的に適用します。報告書の提出は「復帰意思の表明」と位置づけます。報告が途絶えた場合は速やかに家族へ安否確認を依頼します。

復帰基準と復帰判定
復帰基準は三つです。
- 業務基準(上司が判断):元職場・元職位・元職務で職位相当の10割。
- 労務基準(人事が判断):就業規則遵守、所定労働時間の勤務が可能。
- 健康基準(主治医・産業医が判断):業務による健康悪化リスクの最小化。
主治医が判断できるのは健康基準のみです。 業務基準と労務基準は医師の管轄外であり、会社が主体的に判断します。主治医の「復帰可能」の診断書だけで復帰を認めてはいけません。
復帰判定では、主治医の意見書取得に先立ち、会社が予備面接で業務基準・労務基準を確認します。最終的には上司・人事・主治医・産業医の関係者が全員一致で「復帰可」の場合にのみ復帰を認めます。

試し出勤制度 — なぜ非推奨なのか
「試し出勤で様子を見てから復帰を判断する」という企業は少なくありません。しかし復職名人では、試し出勤は原則として推奨していません。
簡単な作業(本棚整理やコピー取り)をさせても、職位相当の業務を遂行できる判断材料にはなりません。逆に、職位相当の作業をさせるのであれば、それは復職させるのと同じことです。
試し出勤には「同床異夢」の問題もあります。本人は「不安解消のため」、主治医は「段階的負荷のため」、会社は「安心材料のため」と、関係者が異なる目的で合意しています。目的が違えば評価基準も違い、結果の解釈も食い違います。
復帰基準を満たすまで復帰準備を継続してもらい、ストップ要件を設定した上で通常勤務で復帰させる方が、はるかにシンプルです。既に試し出勤制度がある場合は消極的に容認しつつ、厳格なストップ要件(月3回以上の勤怠問題で再療養)を必ず設定してください。

休職期間満了の実務
休職期間満了の帰結は、解雇猶予期間の経過による労働契約の終了です。
ここで最も重要なのは、満了直前ではなく、療養開始時から対応を始めることです。メソッドの手順を最低限の速度で進めても、療養専念期に1カ月、復帰準備期に1カ月、復帰検討期に2週間で、合計2.5〜3カ月を要します。満了3カ月前の時点で療養専念期の初期状態であれば、復帰は事実上不可能です。
「ここまでにこれができなかったら復職は難しくなってくる」という見通しを、本人・家族と早い段階で共有してください。将来の話であれば受け入れられますが、満了直前の通知では受け入れにくいものです。
満了直前に突然「復帰可能」の診断書が提出されるケースもよくありますが、手順通り週1報告を提出させていれば、まだ復帰できる状態ではないことは記録上明らかであり、「急な復帰可能診断書」の合理性を判断できます。

満了が近づいても諦めない
休職期間満了間際であっても、メソッドの手順を淡々と尽くし、最後まで復帰に向けた対応を進めることに意味があります。
手順を実行することで二つの結果のいずれかにつながります。一つは意外な復職実現。「ただ待っていても救済されるわけではない」という真実味が伝わり、復帰準備が加速するケースがあります。もう一つは、復帰準備の過程で自身の状況を振り返り、ある程度納得した上での退職に至ることです。
最後まで対応から逃げないことが、会社の誠実さの証明になります。

退職対応 — 復職と退職の話を同時に扱わない
復職プログラム適用中に従業員が退職を口にすることがあります。このとき守るべき原則は、復職と退職の話を同時に扱わないことです。
退職意思がほのめかされた場合は、三つの選択肢を提示します。(1)療養を継続する、(2)一時中断する、(3)中止する。「中止」を選んだ場合でも、その場では処理せず、まず家族と話し合ってもらいます。
退職意思の多くは「陽動作戦」であることも認識しておくべきです。退職を持ち出せば人事の態度が和らぐことを学習しているケースがあります。
復職担当と退職事務担当は明確に切り替えることも重要です。


よくある誤解 — 休職・復職制度にまつわる5つの思い込み
「主治医が復帰可と言えば復帰させるべき」
業務基準と労務基準は医師には判断不能です。復帰可否の判断権は会社にあります。
「安全配慮義務があるから配慮して働かせるべき」
安全配慮義務の基本的な履行は「休ませること」です。不完全な労務提供を受領することこそが安全配慮義務の不履行状態です。
「試し出勤で復帰可否を判断できる」
簡単な作業は判断材料にならず、職位相当の作業は復職と同じ。ストップ要件の設定の方が実用的です。
「8割回復で段階的復帰すればよい」
「8割」は事後的な許容目安であり、復帰基準ではありません。本人の主張は「10割できます」が前提です。
「メンタルヘルス不調者には懲戒処分できない」
日本HP事件(最高裁平成24年)は、適切な手順を踏んでいれば懲戒処分も有効と判示しています。療養か懲戒かの二択として整理し、メソッドの手順はまさにこの要件を満たします。


