理論・解説

就業規則|復帰基準に関する規程

今回は、休職者対応において重要となる、復帰基準の規程について、ご説明します。

休職・復職の基本

まずは基本から。

労働契約により労働者は労務提供をする約束をしています(会社は賃金を支払う約束をしている)。そのため、何らかの事情により労務提供ができない場合、約束違反となりますので、契約の解消を検討することとなります。
 その際に、何らかの事情を考慮して、一定期間契約の解消を保留する、というのが休職制度です。

上記を整理すると、何らかの事情=休職事由が存在していて、それにより労務提供ができないために、休職が発令されています。
 そのため、休職事由が消滅し、労働契約通りの労務提供が再開できるようになった場合には、復職することになります。

従来型規程の問題点

従来からある多くの就業規則では、次のように、「健康状態が回復したか」に焦点があたっています。

第○条 第○条にて休職を命ぜられた社員は、従前の職務を通常程度に行える健康状態に回復した場合に、直ちに復職しなければならない。

要するにこの規程では、従前の職務を通常程度に行える健康状態に回復したかどうかで、復職可否を判断することとなります。
 しかしながら文字通り考えてみると、従前の職務を通常程度に行える健康状態に回復したことは、どのように判断すれば良いでしょうか。

要するに、この規程では、休職事由の証明が、「健康状態の回復」をもって判断されます。そのため、本来は会社が主体的に判断すべき事項であるのに、主治医の診断書という医学的な意見に、相当程度、依存せざるを得ない構造になってしまいます。

例えば、主治医が復職可能と意見している事例に対して、具体的な根拠も示さず、面談時の様子などから「仕事をさせられそうにないから」といった理由で、復職を延期することは難しいと言えるでしょう。

一方の主治医の側も、健康状態の回復そのものは判断できるかもしれませんが、それにより従前の業務を通常程度に行えるか、という判断は非常に難しいものです。なぜなら主治医には従前の業務がどんなものなのか、詳しくは分からないことが多いからです。

こうした場合、主治医の意見を産業医に覆してもらおうと考えてきたかもしれませんが、主治医と産業医の意見が一致しない場合にどちらが優先されるかは、難しい問題です。

おすすめの規程

私たちは、復職の条件を、業務基準・労務基準・健康基準の3つの観点から規定することをおすすめしております。
 そこで、この基準を就業規則の復職可否判断の基準として、次のようにそのまま記述してしまえば、先ほどのような問題は解消されます。

第○条 第○条にて休職を命ぜられた社員は、復帰後、以下の①から③の基準を満たす状態が6カ月以上安定継続的に可能と見込まれ、療養の原因となった疾病が増悪することはないと判断できる場合に、復職を認められる。

①業務基準
元職場・元職位・元職務への復帰を原則とし、復帰後の業務効率・質・量等が、職位相当、最低8割以上であり、2カ月以内に職位相当10割に回復すること。

②労務基準
前号の職務において労働契約における所定の始業終業時刻による定時勤務ができること(交替制労働者の場合は、交替勤務を含む)。復帰当初は時間外・休日労働をさせないが、復帰後1カ月経過後からは、業務上必要な時間外・休日労働を命ずる。

③健康基準
健康上の問題による業務への支障、および業務による健康上の問題が発生するリスクが最小化されていること。

なお、①に規定する「原則」の例外は、元職場・元職位・元職務のいずれかまたは複数が、会社都合により消滅した場合とする。

このような規程を、適切な手順を踏まえて定めておくことで、例えば仮に主治医からの復職可能の意見書が提出されたとしても、それは3つの基準の内、健康基準を満たしただけであり、すなわち、そのまま復職可能という結論には直結しないと説明できます。
 つまり、健康基準に加えて、残りの2つの基準を満たしているかどうか判断して、復職可否を決定するという運用が可能となります。

もちろん、私たちが推奨する手順と様式に従えば、3つの基準の判断の「順序」は、業務基準・労務基準の確認が「先で」あって、健康基準の確認は、その「後に」すべきことは言うまでもありません。

また、規程を準用すれば、この基準は就業継続基準としても用いることが可能です。
 実際に再療養を命じるためには、別の規程があった方が望ましいことに変わりはありませんが、復職後の再療養導入場面において本人を説得する材料としては、本規程をもとに説明することができるでしょう。

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