復職名人 理論・解説

「復職可能」の診断書が出たものの、人事から見てまだ復職できそうにないとき

療養中の従業員から、「復職可能」の診断書が突然提出されるケースはよくあります。何が突然なのかといえば、会社としてはまだしばらくは復職できないだろうと考えていたところに、復職可能の意見が出てきている点です。

このようなケースではどのように対応すればよいでしょうか。

診断書の内容そのものは否定できない

まず大前提として、会社は医学的には素人の集団です(仮に病院の事例であったとしても、主治医の専門性を上回る知識や経験があるケースはほとんどないといってよいでしょう)。そのため、診断書の内容そのものは否定できません。
 これは要するに、「主治医の先生は復職可能と言っているが、医学的に見てそれはおかしい」とは判断できないということです。

またケースによっては、「復職可能。ただし部署の異動が望ましい」というように条件が付いていることもあります。この場合に、前半の「復職可能」という意見だけを採用して、後半の「ただし部署の異動が望ましい」という意見を採用しないというような、一部の内容だけ採用することもできません。

産業医の先生に否定してもらうことも難しい

会社に医学的な意見を述べる能力がないのなら、ということで、産業医の先生に「復職は時期尚早」と意見してもらおうと思うかもしれません。ですが、これも適切な対応とは言えないでしょう。

まずそもそも産業医は会社から独立した、会社と労働者の中立的な立場にあります。そのため、時期尚早という意見を言ってほしいという会社の希望を忖度してもらう存在ではありません。会社に代わって意見を言ってもらおうという考え方自体が、適切とは言えないのです。

また仮に産業医が主治医の意見を否定して、「復職は時期尚早」と意見したとしても、復職可否を争う裁判になった場合に、主治医の意見と産業医の意見、どちらが採用されるかは場合によって異なります。
 裁判となる事件ごとに状況は異なるわけですが、基本的な構図としては主治医の診療専門性を採用するか、産業医の職場や当該従業員の働きぶりをよく知っていることを採用するかによって、判断が分かれていると、個人的には考えています。そのため正直なところ、主治医の意見を否定して、嘱託産業医の意見が採用されることは、少ないと考えています。
 ということで、どちらに転ぶかわからない、どちらかというと分が悪い対応を取るべきではないでしょう。

どのように対応するか

労働契約に沿った完全な労務提供を求める

この時点から対応しようとしても、後出しに過ぎません。今から復帰基準を説明したり、手順を導入しようとしても、それは遅すぎます。
 そのため、次から対応を改めることにして、基本的には今回の復職は認める方向が良いでしょう。

ただし、この時点で会社の裁量の範囲でできることに取り組み、少しでも軌道修正はしておきましょう。

そもそも休職とは、私傷病により労務提供が困難になった状態に対して、一定期間労務提供義務を免除して療養する機会を与えている制度です。
 そのため復職するということは、元通りの労務提供、厳密にいえば労働契約の債務の本旨に沿った労務提供を再開するということに過ぎません。

つまり、復職した以上は完全な労務提供を求めること、それができる前提で復職を認めるという点を慎重に確認しましょう(後述のサンプル参照)。

また病状が回復していないと思われる場合に、速やかに再療養導入をするため、ストップ要件を設定したうえで復職を認めるべきであることは言うまでもありません。

条件付き復職可は完全な労務提供とは言えない

部署の異動や軽減勤務などが必要といった、条件付き復職可の意見は、完全な労務提供ができる状態にあるとは言えない場合がほとんどです。あるいは完全な労務提供を求めると病状が悪化することが否定できない、と整理しなおせる意見がほとんどでしょう。

その点を丁寧に確認して、復職を延期する方向で対応しましょう。念のためそのような配慮に言及した、というような場合であれば、主治医意見を取り直してきてもらうことで、時間を空けずに復職できるケースもあります。

復帰基準は先に伝えておく

今回はこれらの対応で仕方ありませんが、次回以降は同じようにならないように、復帰基準を先に伝えておくことが重要です。

また本人だけでなく主治医にも、会社の復帰基準を伝えておいた方が良いでしょう。

シナリオサンプル

復帰にあたって重要となる、「働く」ということの内容について、確認させていただきます。これは、職位相当の業務について、就業規則を遵守し、また上司から指示されたとおりに遂行する、という意味ですが、齟齬はありませんか。
 というのも、〇〇さんは当社の正社員として採用されています。つまり、契約期間が無期であるだけでなく、大事な点として、配属先や職務内容にも限定がありません。言い換えると、この部署のこの業務はできるが、この部署は難しい、あるいはこの業務はできない、この業務に従事すると体調が悪くなるといった状態であれば、それは復帰基準を満たさないということになります。

 これらを踏まえた上で、改めて〇〇さん自身の意志を確認させてください。会社としては、先ほど説明したように働くことできる、というご本人の意志が確認できなければ、当然復帰を認めることは難しいのですが、復帰後、短期で再度療養が必要となることはなく、職位相当の業務について、就業規則を遵守し、また上司から指示されたとおりに遂行する働ける自信はありますか。

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