復職名人について説明すると、様々な反応があります。
その中でも「社員に対してそんな厳しい方法を取ったらかわいそう」という反応が、特に保健師さんを中心によくあります。あるいは、セミナーなどでこの方法はよいと思って、社内に持ち帰ったところ、同僚から同様の批判されるということもあるでしょう。
この反応について、私たちの考え方をご紹介したいと思います。
会社VS社員個人という対立構造なのか?
このような反応の背景には、厳しい対応をする会社VS病気で弱っている社員という構図があると考えています。
病で弱っている社員に対して、強い権限を持った会社が乱暴なことをしてよいのか、という印象でしょうか。
しかしながら、これは医療的健康管理の基づく考え方であって、業務的健康管理で考え直すと違った見え方ができます。
復習として、二つの健康管理について、簡単に再確認してみましょう。
二つの健康管理について
医療的健康管理と業務的健康管理では、健康管理の目的が大きく異なりました。
医療的健康管理の目的は、社員各自の健康増進です。医療ですから、その社員が健康になるために、場合によっては、他の社員に負担となることもありえます。具体的には、その社員だけがメリットを享受する業務上の特別待遇をイメージしていただければと思います。
一方で、業務的健康管理の目的は、組織そして会社全体として、就業に支障がない労働力を確保することです。全体最適を目指しますので、一部の社員にとって不都合なことであっても、組織にとって必要なことであれば行うこともあります。
例えば、人員の適正配置のために行われる、場合によっては本人が希望していない異動をイメージしていただければ分かりやすいです。
要するに、社員を見る際に、医療的健康管理は社員「個人」に焦点を当てるのに対して、業務的健康管理は社員「集団」に焦点を当てます。
つまり、復職名人による対応は、特定の社員に対して厳しい対応をするというわけではなく、社員集団全体に対して、公平な対応をするということです。
同僚たちにとってはどうか
休んでいる社員に対して優しい対応をすることが、社員に対して優しい会社であると、誤解しているケースがあります。
しかしそれは社員集団に対しては、「休んでいる社員の分も頑張って働け!」と言っているに等しく(なぜなら休んでいる社員の分、利益が減っても仕方ないとは言わないですよね?)、それが社員に対して優しい対応とは到底言えないかと思います。
会社VS社員集団という労使対立の構造なのか?
次に考えてみたいのが、会社が行う「厳しい」対応は、何に基づいて行われるかということです。
医療的健康管理は、医療に関する専門知識や考え方に基づいて実施されます。医療となると、体系的な部分もあるとはいえ、基本的にはケースバイケース、臨機応変な対応が必要となります。
そのため、会社の対応もケースによって異なり、その中で本人にとって厳しい対応をしてしまうと、その背景には会社の恣意的な意図があると考えてしまいます。このようなイメージに縛られて、嫌悪を感じるのでは無いでしょうか。
一方で業務的健康管理は、規則やルールに基づいて実施されます。会社も社員も、規則やルールの範囲で活動することとなり、全体的には公平な対応をすることになります。
さらに、規則やルールは(一定程度は会社が決めるとはいえ)、基本的には労使が話し合って決定するものです。そのため、会社対社員という一次元の構造ではなく、会社や社員の上に、規則やルールが有り、その基で、会社も社員も対応をしているという二次元の構造だと言うことです。
このように整理すると、メソッドを用いることで、厳しい対応をする会社という、会社を悪者にする考え方とは違った見え方ができるでしょう。
私たちの思い
私たちの活動のモチベーションの一つに、実は、「真面目に働く社員が報われる社会にしたい」というものがあります。
病気になった方に対しても優しい対応をしたいと言うのであれば、むしろ、病気になったときに速やかに十分な期間休むことができる制度や、復帰後に通常の社員として「普通に」接する風土のほうが、社員に対して優しい会社と言えるのではないでしょうか。
ぜひ、社員一人ひとりを見る視点だけでなく、社員集団全体を見る視点も持ってみてはいかがでしょうか。