理論・解説

パワハラ疑いへの対応

「休んでいる本人の話を聞くと、職場でパワハラを受けていたようだ」とか「パワハラの被害を訴えていて、復帰時は別の部署への異動を希望している」というように、パワハラが、メンタルヘルス対応のトレンドの一つになっています。

パワハラ対応の基本

パワハラの有無は、定められて手順を踏んで決定される

2019年に労働施策総合推進法が改正され、パワハラ対策が企業の義務とされました(中小企業も2022年4月から義務化)。具体的な対策については、本稿の範疇外であることから省略しますが、これによりパワハラ防止のための施策や、実際に相談があった際に対応するための体制づくりが、多くの企業で導入されることになります。

ここでまず注意しなければならないのは、パワハラをはじめとするハラスメント行為等については(あるいは懲戒処分もそうですが)、会社で定められた手順を踏んで、事実関係を確認してから対応する、という点です。
 裏を返せば、被害者とされる方からの相談を受けて、すぐに憶測で動いてはいけないということです。

この点は、正式な手順を少しも踏んでいないのに(正式な窓口に相談さえされていない場合もある)、あまりに安易にパワハラがあったかのような対応をしていたり、言動をしている担当者が非常に多いように感じています。よく注意するようにしてください。

一般的な手順としては、各社で設けられているパワハラ相談窓口に相談があったのちに、被害者とされる方、加害者とされる方、第三者に対して、事実関係を確認し、その上でパワハラの有無を判断する、という流れになります。

パワハラがあったか、あったとまでは言えないかで考える

職場のパワハラの問題がなぜ難しい問題なのか。その一つの要因として、パワハラはシロともクロとも言えない、グレーの範囲が広い点が挙げられます。
 上司や先輩は、後輩を一人前に育て上げたいとして、(場合によっては自分が指導されたのと同じように)厳しい指導を、後輩に対してしているだけのつもりであっても、後輩の立場からは、パワハラを受けた、となることがあるのです。

ここで重要な点は、パワハラの有無は、パワハラがあったと言えるか、あったとまでは言えないかで判断するということです。つまりクロかクロとまでは言えないかで判断しましょう。
 そして、パワハラがあったと判断できる状況であれば、手順や規則に則った加害者に対する処分を行えば良いでしょう。

パワハラがあったとは判断できなかったとしても、適切とは言えない点は指導する

では、パワハラがあったとは判断できなかった場合にはどうするか。パワハラの相談があるくらいですから、全くのシロということはないのでしょう。あるいは相談者側が業務上の指導をパワハラだと感じてしまうような、誤解が生じかねない言動があったかもしれません。
 つまり、先ほどのクロかクロとは言えないかという議論で言えば、クロとまでは言えないものの、適切とは言えない点があるはずです。

そのような場合には、適切とは言えない点について指導を行い、改善を求めましょう。


なお、パワハラ対策に関する具体的な手順等については、厚生労働省がまとめているこちらのマニュアルが参考になりますので、よろしければご確認ください。

明るい職場応援団>パワーハラスメント対策導入マニュアル(第4版)

パワハラとメンタルヘルス対応が絡んだ場合

以上は、一般的なパワハラに関する話ですが、これにメンタルヘルス対応が絡んだ場合はどうなるでしょうか。

パワハラと復職の話は独立した問題

まず、パワハラの有無の話と、メンタルヘルス不調から復帰するという話は、独立した問題です。きっちりと切り分けて考えなければなりません。

多くの場合、休職中の従業員・職員対応をしている人(人事担当者や保健師等)が、パワハラがあったという相談を受けて、お困りになっています。
 ですが、上記の通り、パワハラは正式な窓口へ相談があったのちに、手順を踏んで判断されるものです。

そのため、パワハラの有無については、窓口へ正式な相談をするよう促し、この場では復職に向けた話だけする、という整理をしましょう。
 このように、担当者を分けて二つの問題をごちゃまぜにしないことが、実運用において重要です。

もし、休職者対応の担当者がハラスメント窓口の担当者だったらどうするか。ハラスメント窓口を臨時に別の人に替わってもらえば良いでしょう。もし、ハラスメント窓口の担当者自身が、ハラスメントの加害者だった場合には、別の方がハラスメント窓口の担当をするはずです。それと同じことです。

パワハラの有無を休職中に判断しない

そして注意したいのは、パワハラの有無を休職中には判断しないようにする点です。

パワハラの有無を休職中に判断してしまい、かつパワハラがあったとまでは判断できなかった、という結論になった場合のことを考えれば分かるでしょう。
 職場はパワハラはあったとまでは判断していないのですから、処分等は行わず、特に休職者対応は通常と同じように行います。一方で本人は、パワハラは無かったという判断そのものを不服として、パワハラがあったと判断されるまで復職しない、となり、おかしな膠着状態になってしまいます。

また別の問題として、パワハラの有無を判断するための、被害者とされる方へのヒアリングは、それなりに負荷がかかります。本人へのヒアリングを療養中に実施したことで、万が一にも病状が悪くなるかもしれません。

そのため、パワハラ相談窓口に正式な申し立てがあったとしても、本人へのヒアリングは復帰後速やかに行うと約束して、療養期間中には行わないようにしましょう(なおもちろん、本人以外へのヒアリングは、相談があったのちに速やかに行っておくべきであることは、言うまでもありません)。

パワハラがあったとしても原職復帰できる

最後に、仮にパワハラがあったと判断された場合のことを考えてみましょう。

他のハラスメントと同様に、加害者から被害者への謝罪とともに、加害者と被害者の距離を置く、具体的には別の部署へ異動させることが一般的です。
 そしてその場合、加害者を別の部署へ異動させるべきだと考えます。被害者には何の落ち度もないわけですから。また、仮に被害者を異動させたとして、異動先に少しでも不満がある場合、「パワハラを相談したことへの報復人事だ」ということになりかねません。そしてそれを避けるためには、本人が希望する部署へ異動するほかなくなり、会社の事業運営上の都合が度外視されてしまいます。

パワハラがあった場合であっても、加害者側を異動させる、という整理をすれば、パワハラがあった場合であっても原職復帰の原則を維持できる(パワハラがあったとは言えない場合は、通常と同じく原職復帰とする)こととなりますので、対応の一貫性を保つことができます。

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