理論・解説

テレワーク就業規則の注意点

新型コロナの感染拡大以降、テレワークの導入が各社で進んでいます。

しかし、テレワークを制度化する際に、いくつかの注意が必要だと考えていますので、今回はそのポイントをまとめておきたいと思います。d

テレワーク就業規則を定める意義

就業規則は、原則は労働契約にて定められる労働条件を、包括的に具体的に定めたものであると考えられます。そのため就業規則に定めていることは、労働契約とほぼイコールであるということです。

そのように考えると、就業規則に定めた内容に違反する行為というのは、労働契約に反する行為であるといえます。そのため、仮に従業員側が違反したのであれば何らかの処分を行うことになりますし、会社側が違反したのであれば、従業員としてはその指示に従わないことも可能となります。要するに、会社から労働者に命令する根拠にもなり、かつ会社からの命令の制約を課す根拠にもなるわけです。

その上でまず、テレワークは就業規則における法定事項ではありませんので、就業規則に必ずしも定める必要はありません。定めない状態でテレワークを命令しても法的に何か問題になることはありません。

一方で、もし従業員が指示に従わなかった場合、テレワークが就業規則に定められていないと、それを強制することは難しいといえます。具体的には、例えばテレワークを命じたが、本人が出社継続を希望して出社してくるケースなどが想定されます。

テレワーク就業規則の注意点

厚生労働省がテレワーク就業規則のモデルを示しており、そこに検討した方が良い事項を挙げていますので、これが大変参考になります。ただしこのモデルは、公開されてから月日が経っていて、昨今の状況を必ずしも反映しているわけではない点に、注意が必要です。

特に、テレワーク利用の対象者をどのように決めるのかは、注意すべきだと考えます。というのも、従来のテレワークは「ワークライフバランスの推進」という側面が非常に大きいものでした。そのため、育児中・介護中の従業員が利用することなどが、想定されていました。
 しかしながら、昨今の状況でもわかったように、一斉にテレワークを実施しようと思っても、業務によってはテレワークが向かないものもありますし、事業上テレワークをしない/させないといけないというケースもあります。

そのようなケースを想定すると、テレワーク利用者の対象者を決める際に「本人の希望」を条件とすると、にっちもさっちもいかない状況になりかねません。例えば、国や自治体の要請で、8割の出社削減が求められているのに、テレワークに「同意」してくれないということで、テレワークを命じられない、というようなケースが起こりえるわけです。
 そのため、会社が必要と考えた場合にテレワークを命じることができるように、規定化すべきであると考えます。

その一方で、もちろん就業規則制定の際には、従業員への周知・説明も必要ですし、費用負担など不利益性を低減する措置も必要でしょう。

メンタル対応とテレワーク

さて、ここまで一般的なテレワークに関するお話をしてきましたが、今後特に注意しなければならないと懸念しているのは、休職から復職するタイミングですぐにテレワークを適用することです。

私たちは、一貫して復職時は原職復帰とすること(原職復帰の原則)を推奨しています。これはテレワークや在宅勤務でも変わりありません。
 というのも、おそらくテレワークを活用することにより、仕事における全体的な負荷が軽減できる方の方が多いでしょう。都会などで通勤に大きなストレスがかかるケースや、職場での人間関係でのストレスがかかるケースは特にそうだと思います。療養前の職場がそのような状況だった場合に、テレワークや在宅勤務から復職したいという希望が今後出てくることが想定されます。

しかし、テレワークや在宅勤務からの復職は認めるべきではありません。

理由1:完全テレワークが前提であったとしても、出社が必要な場合がある

テレワークや在宅勤務からの復職を認めた場合であっても、定期/不定期に出社して会社で業務をしないといけない場面があると思います。そのような場合に、当該従業員に出社を命じることはできるでしょうか。いつから命じても良いか、朝の通勤時間帯は避けた方が良いか、誰か別の従業員を出社させた方が良いか、など、悩みは尽きません。
 また、出社を命じた場合であっても、翌日から業務連絡が滞るようになり業務遂行に支障が出始めた、というようなことがあった場合はどうするのでしょうか。「会社は当該従業員が出社して通常勤務することに支障があるということを認識していたのだから、テレワークや在宅勤務からの復職を認めていた。にも関わらず、突発的に出社を命じたことにより、病状が再増悪した」として、会社の安全配慮義務違反になることも、考えられます。

理由2:「テレワークなら復帰できる」は、完全な労務提供ができるとは言えない

理由1にも通じることですが、いつからテレワークや在宅勤務限定の勤務から、通常勤務へ移行できるのでしょうか。それは誰が判断するのでしょうか。さらには、出社や客先訪問が必須な部署への異動の制限はいつからできるのでしょうか。
 そもそも、「テレワークや在宅勤務なら可能」という時点は、まだ完全な労務提供ができる場面とは言えません。「テレワークや在宅勤務であっても、会社へ出社して勤務することであっても、可能」という状態でなければ、ならないはずです。

理由3:テレワークにより負荷が増す可能性も否定できない

これは見落とされがちですが、テレワークや在宅勤務にもデメリットはあります。例えば、共働きで子どもの様子を確認しながら仕事をしないといけない家庭では、在宅勤務の方がむしろ負荷がかかることもあります。また、業務管理や労務管理がどうしてもおろそかになりますので、業務の進捗の遅れをカバーしようと、深夜・休日まで作業を行うこともあるかもしれません。その結果生活リズムが大幅に乱れることもあるでしょう。

このようなことが想定されるので、テレワークや在宅勤務からの復職は認めない方が良いと考えます。

復帰後のテレワーク適用のタイミング

復帰後の部署異動と同じく、テレワークの適用も、通常の労務管理下に移行してからにすべきです。

具体的には、「本人が通常勤務(=週5日出社して勤務すること)ができると自信を持って宣言でき、会社もそれが合理的な主張であると判断できること」と「1か月間は出社して通常勤務を行い、就業制限を解除した後にテレワークや在宅勤務を適用すること」という対応が必要でしょう。

テレワークでも新しいことが生まれるのか

ところで、コロナ禍前にもテレワークを全面適用し、その方針を撤回した企業がありました。有名な事例はIBMの例でしょうか。
 この事例でよく言われていることは、「単純な作業はテレワークや在宅勤務でも問題なく遂行できる。あるいは生産性が向上するかもしれない。しかし、人と人が有機的に交流する環境でこそ、新しいアイディアをひらめき、新たな価値を創造するようなクリエイティブな仕事ができる」ということです。

そこまで大げさに言わなくとも、従業員間の非公式なコミュニケーションの重要性は、どうしても低く見がちです。しかし、ちょっとした休憩室での会話や、ランチタイムの雑談、デスクでの声掛けなど、従業員間がコミュニケーションを取ることで、従業員間の協調性が促進されますし、新たなアイディアが生まれるものです。

今後、世の中がどのようになるか分かりませんが、組織づくりにおいては非公式なコミュニケーションの場を意識して作ることが必要であると考えています。そうしないと、今は問題なくても、そのうち業績が頭打ちになる/一つ一つの問題解決に時間と労力が必要になる状況になるかもしれません。

人事の方には、遊びを設ける重要性をぜひ意識していただきたいと思います。

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