理論・解説

復職時のテレワーク・在宅勤務適用について

新型コロナの感染拡大が続き、特に都会を中心に在宅勤務が一般的になってきました。それに関連して今年になって多くなってきた相談に、「メンタル不調からの復職とテレワークや在宅勤務はどう整理すればよいか」というものがあります。

これについては、労働新聞社の「安全スタッフ」にてコラムを執筆しました。さわりだけはこちらで確認できますので、よろしければご参照ください。https://www.rodo.co.jp/column/93747/ (労働新聞社|【ひのみやぐら】在宅での復職は「待った」2020.08.27)

ここからは、テレワークと在宅勤務は明確に区別はせず、どちらも職場に出社せずに仕事をする、広い意味での事業場外労働として使います。

在宅勤務からの復帰はおすすめしない

まずはっきりしているのは、復帰直後から在宅勤務をさせることはお勧めしません

理由① 在宅勤務が良いか悪いかは人によって異なるから

一般的に在宅勤務は、通勤の負担軽減や、職場での人間関係のストレス軽減など、労働者にとって良い側面が多いと言われています。

一方で、在宅勤務がこれほど長く続くと、例えば在宅勤務に適切な環境が整っていないとか、仕事とプライベートの時間の区切りが不明確になりストレスになるとか、子どもの世話をしないといけないから大変、というように、悪い側面が目立つ労働者も増えてきました。

つまり、在宅勤務が当該労働者にとって良いと、一方的に決めつける対応には問題があるでしょう。

理由② 在宅勤務での労務管理は難しいから

これはよく言われるポイントですが、在宅勤務になると働きぶりを評価することは難しくなり、成果を中心とした評価にならざるを得ません。となると、成果を出すために、場合によってはこっそり深夜まで作業を行う労働者が発生したり、生活リズムが乱れる事例も発生したりするかもしれません。

ただでさえ復帰後の労務管理は慎重にする必要があるのに、この間に在宅勤務をするとなると、コントロール不能な状態になりかねません。

理由③ 復帰基準は、出社する通常勤務も、在宅勤務もできないといけないから

お勧めしない最大の理由は、復帰基準はあくまで「債務の本旨に沿った労務提供ができること」です。ほかの一般的な労働者を見ればわかる通り、出社して勤務することも、在宅勤務することも、どちらもできなければ、完全な労務提供とは言えません。

例えば、緊急事態宣言が解除されて、急に次の週から出社しないといけないということが想定されますし、場合によってはトラブル対応等で急遽出社が必要になるかもしれません。もちろん、必要なあるいは緊急の要件で出社が求められることは当然ありますが、それができなければなりません。

そもそも、「東京本社であれば勤務できるが、地方の営業所では勤務できない」というような状態が、勤務地無限定性を満たしていないことを考えると、出社はできないが在宅勤務ならできる、という状態は許容すべきではないことが分かるでしょう。


以上のような理由から、復職時の在宅勤務は強くお勧めしていません(相談を受けた場合や支援先には、絶対にしてはいけないとアドバイスしています)。

では、いつから在宅勤務をさせるのか

そうは言っても、いつまでも在宅勤務をさせずに、出社させ続けることは難しいかもしれません。ではいつから在宅勤務を命令できるでしょうか。

いつも、復帰後の異動に関して言及していますが、これと全く同じです。要するに、在宅勤務はある意味での勤務地の業務都合による指定に近いので、復職後に異動できるようになったタイミングからは、在宅勤務をさせることも可能と整理できます。

具体的には、復帰後1カ月間は産業医学的観点からの配慮として残業無しとし、2カ月目からは産業医学的観点からの配慮は解除し、上司による段階的な残業命令を認めています。

これと同じように、復帰後1カ月間は、原職で出社を求める。2カ月目からは、在宅勤務をさせることも場合によっては適正部署への配置もできるという運用で良いでしょう。

おまけ

就業規則の注意点

「テレワーク就業規則」を少し検索していただければわかる通り、従来の在宅勤務は家庭の都合などで出社して勤務することが難しい従業員が「利用できる」、福利厚生制度として定められていることが一般的でした。そのため、在宅勤務を適用する条件に、「本人の希望や申請」を入れているケースが見受けられます。

ですが、昨今の状況を考えると、この部分は見直しが不可欠と言えるでしょう。というのも、例えば国や自治体から企業に対して、在宅勤務を要請された場合に、従業員へ在宅勤務を「命じる」場面があるかと思います。その際先ほどのように、「本人の希望」という要件があると、本人が希望あるいは申請しない限り、在宅勤務をさせることができなくなってしまいます。部署の異動等と同じく、会社が命じた場合には、本人の希望の有無にかかわらず、在宅勤務を命じることができるように規定しておくべきだと考えます。

平たく言えば、これからの労働者は、出社して通常勤務することも、在宅勤務をすることも、どちらもできることが求められるということですね(もちろん、在宅勤務の体制整備を、会社が支援する必要はあると考えます)。

在宅勤務主体になり、メンタル不調者の属性が変わる?

これはコラム的な内容ですが、在宅勤務が主体になると、メンタル不調になる人が変わるかもしれないと考えています。

どういうことかというと、従来の働き方が合わずに、ストレスが増加してメンタル不調になっていた人の中には、在宅勤務が適合して、メンタル不調にならない可能性があると考えられるためです。
 逆に従来の働き方に適合していた人にとっては、在宅勤務で別のストレスが増加して、メンタル不調になる人が増えるかもしれません。
 「従来とはメンタル不調になっている人が変わった」という相談を受けることがあるので、それなりに妥当性があると考えています。

ただ注意してほしいのは、だからと言って、職場の環境調整として在宅勤務を進めた方が良いとか、メンタル不調者を減らすために在宅勤務を推奨した方が良いといっているわけではありません。
 まずは企業の経営上の都合により、どのような勤務が望ましいか、どのような仕事の進め方が望ましいかは決まってくるはずです。メンタル不調にならないために仕事の進め方を変えたところ、経営状況が悪化したとなっては、本末転倒です。

また、従来の働き方であっても、在宅勤務主体の働き方であっても、基本的には労働契約の範囲で働くことに変わりありません。要するに、働く以上何らかのストレスがかかることは避けようがなく、そのストレスとうまく付き合いながら、仕事を続けることが、労働者の基本的なスキルとして求められるわけです。
 働き方が大きく変化する中で、ストレスの種類やかかり方、発散の方法が変わってきている、ということでしょう。労働者側も働き方だけでなくプライベートの過ごし方の工夫が必要なのかもしれませんね。

企業としては、従来とは異なる様々な仕組みの導入が必要となり、私も現在それを考案している最中ですが、少なくとも言えることは、このままなし崩し的に在宅勤務へ突き進んでは、問題が発生するでしょう。一度冷静になって考える時期が来ているのではないでしょうか。

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