理論・解説

復帰準備期の対応

従来の対応では、療養がある程度進み、生活リズムが整って、通勤訓練ができたというくらいのタイミングで、「そろそろ復職したい」という本人から希望や、「復職可能。ただし軽減勤務からが望ましい。」というような主治医診断書が出てきていたのでは無いでしょうか。

しかし、メソッドの対応で言えば、この段階はまだ、療養専念期の後半から復帰準備期の前半にあたり、復帰はまだ先です。ここから復帰準備を進めて、復帰後に通常通り勤務することが可能となることを目指します。

この段階での対応が、メソッドでは一番重要ですので、しっかりと確認していただければと思います。

復帰基準を達成するために、復帰準備に取り組む

復帰準備期は、療養段階が進み、病状が安定してきた後、復帰基準を達成するために、復帰準備をするための期間です。

具体的には、徐々に業務に近い負荷をかけていき、最終的には業務と同等の負荷のもとで問題なく働くことができる状態まで準備します。

療養専念期においては、療養の報告を受けるだけで、特に会社からアクションを起こすことはありませんでしたが、復帰準備期からは本人の復帰準備に対して、業務遂行の観点からフィードバックを加えていきます。

療養モードから就業モードへ

復帰準備に何をするのか。それは端的に言えば療養モードから就業モードへ、本人の行動や考え方を変容することです。

療養モードとは、例えば「頑張らなくても良い」「マイペースにやれば良い」「苦手なことは他の人に任せれば良い」など、病院で行われる治療上のアドバイスのような考え方です。
 これ自体は、治療の初期には有用な考え方だと思いますが、一方でこの考え方のままで職場に復帰してしまうと、仕事に支障が生じることから、フォローしないといけない職場は困ります。

そのため、ここで言う就業モード、つまり「仕事には期限があるのだから、それに合わせて計画的に、頑張らないといけない」「一人でできる作業ばかりではないので、集団のペースも意識しなければならない」「苦手なことであっても、業務上必要なことは、やらないといけない」というような考え方に変容させて、仕事をする気持ちの面での準備もさせてから、復帰することを目指します。

『療養・復帰準備状況報告書』の提出

療養専念期にも使っていた報告書ですが、今度は復帰準備の状況報告として、継続して提出してもらいます。なお、療養専念期とは異なり、記載内容に対して、フィードバックを行っていきます。

例えば、「生活リズム、図書館で読書、ジムで体力づくり」という復帰準備を報告してきたとしましょう。

この三つは定番の復帰準備ですが、これができるからといって、復帰後に業務ができるかどうかとは全く別問題です。換言すれば、いわゆる必要条件ではあるものの、これだけでは十分条件は満たさないと言えます。
 つまり、もっと具体的に、より職務に近い準備が問題なくできる、ということが確認できなければ、会社としては復帰基準を満たしたとは判断できないでしょう。

そのため、このような報告が出てきた場合には、「もっと具体的な復帰準備を進めて報告するように」というフィードバックを行います。あるいは、療養前に問題となっていた就業上の支障について、復帰後に同じ問題が発生しないように、復帰準備を進めさせます。

『復帰準備完了確認シート』の提出

復帰準備が十分に進んだら『復帰準備完了確認シート』を提出してもらいます。この確認シートは、記入する過程で、職場復帰で求められる水準と自分の現状を再認識するための様式となっております。

各項目を見て頂けるとわかるかと思いますが、職場で働く以上は、全て最上位につけることができていないと職場としては困る内容となっています。また反対に、職場で働く以上は、本人が「最上位には○をつけられない」といっている間は、会社として復職を認めることはできない、とも言えます。
 さらに、書類で確認するということは、記録としても残りますので、全て最上位に○がつくまで、次の手続きに進むことはありません。

そのため、もし、不完全なシートが出てきた場合は、復職準備の継続を命じて、最上位に○がつくまで再提出を促しましょう。

なお、確認シートは、本人から自主的に提出させてもいいですし、人事から提出を促しても構いません。

復帰判定予備面接の実施

復帰準備完了確認シートで、全て最上位に○がついた段階で、復帰判定予備面接を実施します。

この段階で確認するのは、体調の確認ではなく、仕事ができそうかどうかです。健康面での評価は一切必要ありません(ただ、少なくとも復帰準備を行っても差し支えない程度の健康状態にあることは、療養専念期から復帰準備期への移行の際に確認していることになります)。そのため、面接の参加者は本人・家族・人事・上司となります。

この面接で、参加者全員が問題ないと判断できた時点で、次の復帰検討期へと進みます。

イメージは経験者採用時の面接

メンタルヘルス不調者との面接と言われても難しいと思われるかもしれません。しかし、繰り返しですがあくまで労務面・業務面を確認すれば良いのです。そのため、経験者採用時の面接をイメージすると分かりやすいです。

例えば、採用面接時に、応募者が履歴書や職務経歴書に、「●●の業務経験があります」と記述していた場合を考えてみます。
 会社としては、この記述からだけでは、この応募者が本当に期待する業務をできるかどうか判断できないでしょう(もしそんな面接をしているのであれば、すぐに改めた方が良いでしょう)。より具体的に、どのような業務の経験があるかとか、どれくらいのボリュームの業務を行ってきたのかとか、質問して内容を確認し、判断するはずです。

それと同じく、本人からの完了確認シートの提出、あるいは発言だけで、仕事ができるかどうか判断することはできません。その根拠やこれまでの復帰準備の状況を本人に説明してもらい、内容を会社が妥当であると判断してから、次のステップに進みます。

休職事由の消滅に関する主張立証責任は労働者側にある

ここで重要なことは、本人に説明させることです。本人の説明が不十分であるうちは、会社としては復職を認めることはできません。ただし「復帰検討期へ進めない」と直截的に言うと、厳しく聞こえますので、「復帰検討期へ進んでよいか判断できない」と表現すると良いでしょう。

主治医よりも先に、上司・人事が判断する

もう一点重要なことは、主治医が健康上の観点から復職可否を判断する前に、会社として業務上および勤怠上の観点から復職可否を(予備的に)判断するということです。

-理論・解説
-